上海タイフーン

脚本/福田靖

http://www.nhk.or.jp/dodra/typhoon/index.html


第1話 さよなら日本


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2011年春・上海
日本に留学中の黄琳は大学の休み期間に実家の上海に戻る。
温かく迎えてくれる家族・そして近所の人たち。黄琳は近くに
住んでいた女性・野村美鈴の写真を見ていた。

2007年春・東京。
アパレル会社"Maria Veil"でチームスタッフとして働く野村美鈴
はこの日も部下達の無能ぶりを叱り飛ばす。生地の調達が遅れ
ており、販売できなくなればチーフである私の責任にされると。

美鈴は彼氏である柳瀬信二と会うと仕事での顛末を語って聞か
せる。信二は頭ごなしに叱らずコミュニケーションが大切である
事を語るが・・・

翌日美鈴は上司から婦人服部門からランジェリー部門への異動
を命じられる。実績を上げていることを強調するが、聞いて
もらえず、更に現在同時展開している中国部門の為に尾崎と
共に上海に一週間程を行って欲しいとのこと。上海の事を田舎
臭いところだと思っていた彼女は嫌な表情を見せるのだが、
仕方なく付いていくことにする。

上海浦東国際空港に降り立つ。通訳の李さんと合流。
400kmのスピードを越えるリニアに目を丸くする美鈴。
空港から上海市街地まで7分20秒で到着するという。
車窓から見える街並みに建つ高層ビルは3000棟以上で、既に
この町だけで日本の高層ビルの数よりも多いことを聞かされる。
上海がこんな事になっていようとは・・美鈴は素直に驚く。

出資者である中国人・曹飛と会う。
彼から中国に進出する際に手を組むことを打診してきたという。
一目見た曹飛の姿は美鈴と変わりないくらいの若い人物である
事に驚きを見せる。すぐに工場に案内される。設備も日本の物
かそれ以上に最新の工場に驚きを見せる美鈴。ここ10年で上海
は大きく変わり、世界で一番魅力的な町になったという曹飛。
完成品である下着を一つ一つ見て回ると、注文したピンクの
下着が曹飛の判断で勝手に赤いものとして完成されていた。
中国では赤色が縁起が良いものとされており、ピンクでは売れ
ないという。ブランドイメージやコンセプトを説明するが、
全く聞き入れてもらえなかった。それどころか何故売れる商品
を作らないのかと質問を受けた。中国に来たら中国流に従う
べきだと力説される。
店舗を見に行くとそこでも派手な色彩で彩られた店舗や商品を
見て、首を横に振る。
上海なんて、中国なんて大嫌いだと美鈴は思った。
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今の仕事に見切りをつけ次は自分が企業を選ぶ番だと意気込む
ものの、不況・就職難である今の日本に彼女の受け入れ先は
無く、仕事にかまけて放ったらかしにしていた恋愛さえも
うまくいかない。雑誌で見た上海に活動の場を求めていざ出陣
する話。

ドラマとしてはとても興味深い演出の連続だった。
流石は福田靖さん脚本のドラマという感じ。
時代性をよく反映しているし、なんと言っても日本人が普通に
持つ中国に対するイメージを主人公である美鈴にぶつけて演出
している。

主人公はこれまでアパレル業界でそれなりのキャリアを身に
つけ自信に満ちあふれている人物の一人。
しかし一本のネジが外れた途端にこれまで築き上げてきた
自信と経験がいっぺんに吹き飛んでしまう。

田舎では時間が止まったかのように、彼女は羨望の眼差しで
見られているが、いざ都会に出ると彼女の居場所が無く、
気がつくとあれだけ仕事をこなしていた彼女は手に職の無い
フリーターと同等の立場にいるという恐怖が面白いように炙り
だされている。そんなキャリアさえも一瞬にして無効化して
しまうのが今の日本の社会ということで、息苦しい閉塞感
ばかりを感じる展開だ。そこで彼女が活動の場に選ぶのが
上海と言うことで、主人公の活動の場を旨く日本から消失し
中国へと向かわせたなという気がする。

なんと言っても美鈴の感覚は古い。
中国に対するイメージも10年前に置いてきたかのような
思考の持ち主だ。自分を常に高く見積もり、自分と同じ
目線ですべての人を見ようとしている。初めて訪れた中国で
その発展ぶりに驚いたり、二度目に訪れた上海で、物価の高さ
に驚いたり、人材派遣所で日本人はいつまでも特別な存在
だと思っている。
日本式の経営手腕を発揮して中国でも成功を収めようとする
様。決して相手の意見を取り込もうとせずワンマンなまでに
自分のやることを貫き通す様。結局最初に偉そうに語って
いた彼女の主張は脆くも崩れ、見下していた人物たちから
見下される立場へと変遷していく。

まずは現実のすべてを受け止めさせて、そこから彼女自身に
どう昇華させていくのかがドラマとして興味深い点だと思う。
父親が魅了された中国の地。どの辺に魅了されたのかとか、
再び日本に戻ってくる日は有るのだろうかとか、気になる
事だらけの展開。あの中国人に見返すことができるのかも
気になるね。

ドラマとしては難しいと思われる中国人俳優たちとの競演を
違和感なく演出していけるのか。
MEGUMIが結構流暢に中国語を話すのも驚いた。台詞とはいえ
中国語って難しいよな。
中国の街並みも美しく撮られ、新しい建物ばかりでなく、
古い中国の街並みも上手く挿入していると思う。

野村美鈴 ……… 木村多江
曹飛 ……… ピーター・ホー
遠野麻里 ……… MEGUMI
黄琳 ……… 林丹丹
野村君江 ……… 原日出子
三井香 ……… 松下由樹
野村雅彦 ……… 古谷一行

guest
柳瀬信二 ……… 細川茂樹
城山丈一 ……… 山寺宏一
尾崎孝太郎 ……… 梶原善
谷香津代 ……… 左時枝
東海林洋 ……… 徳井優
趙恵珍 ……… 一青妙
黄[土申] ……… 候偉
周玉成 ……… 張春祥
李莉 ……… 沈[王奇]
工場長 ……… 陳旭日
張正芸 ……… ポーロン
孫決?? ……… 魏来

遠藤孝夫、益田愛子、小山かつひろ、リ・コウジ、岩原明生
莫西、耿宇、金国萍、鈴木綜馬、松井涼子、犬飼若博
粟島瑞丸、平良千春、土屋史子、塚田美津代、原金太郎
今奈良孝行、森戸宏明、今泉あまね、原楠緒子、以倉いずみ
宮崎順子、須部弘美、廣澤恵、鄒燕平、浜屋藍、鬼界浩巳
曽偉国

評価:★★★★★★☆☆☆☆ (6.0)

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