NHKスペシャル・ドラマ 15歳の志願兵
(NHK2010年8月15日放送・2010年文化庁芸術祭参加作品)

作 - 大森寿美男
音楽 - 梶浦由記
制作統括 - 磯智明
演出 - 川野秀昭
原案 - 江藤千秋

http://www.nhk.or.jp/nagoya/jyugosai/


「15歳の志願兵・なぜわが子が戦争に?引き裂かれた家族、夢、友情」
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戦時中の1943(昭和18年)年愛知一中は地元では有名なエリート
中学。世間は戦争だが、
藤山正美にとって大切なのは友達と
過ごす時間だった。

昭和18年6月。日本軍の快進撃を知らせるラジオに一同熱狂して
いた。愛知一中でも配属将校の
坂町孝之助や体錬教師の笹塚清志
の指導の元で、戦闘訓練が行われる。銃についた銃剣を藁で
編んだ人間型の型に突き刺し、すぐに体内から抜くという訓練。

そんな中、愛知一中の校長・
村田宗憲の下に海軍より通達が来る。
戦況が苦しく人員が不足する海軍は、甲飛予科練習生の各校へ
の志願者の割り当てを求めるもの。最低でも学校からは47名の
志願兵を出さなければならなかった。

その頃、端艇部は海洋班と名を改め活動する。
敵性運動部と呼ばれた海外からのスポーツは禁止され、個人競
技ばかりが残る現状に異議を唱えるのは、
笠井光男だった。
学校では敵性教育だとして英語教育にも否定的な見解を見せる
事に違和感を感じて、親友の
藤山正美と話し合っていたのを、
上級生の
木崎が聞いていたのである。木崎は笠井に対して、
服従精神をたたき込んでやるとし、殴りかかる。船大工がたま
たま通りかかって下級生を殴るのを止めるのだった。

藤木は笠井に対して思った事をすぐに口にするのは辞める様
忠告する。
笠井は規制される事に対する違和感を訴え、文学の話をしたい
とし、好きなように書きたい事を告げる。しかしそんな事をす
れば非国民であると責められてしまうのが現状だった。

文学の中枢にあるものは何か分かるか?と笠井は藤木に語りかけ
る。それは人間は何のために生きているのかという事。大人に
尋ねれば返ってくる言葉は一つだろうという。
皮肉なことに笠井家は軍人の家系で、藤木家は父を英語教師に
持つ家系。笠井は軍人としての道ではなく、文学の道を歩みたい
と思っていた。

そんな中、学校の掲示板には、海軍飛行兵を募集するポスター
が張り出される。

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終戦間際、日本の戦況が悪くなると、日本国では国民総決起と
称して、15歳の中学生にも戦場に赴き、そして国や天皇のため
に死んで来いと要求する。
戦場以外に貢献出来ることが有るのではないかとする思想も
非国民として扱われ、事実上強制的に戦地に行くよう求められ
ていく。

プロパガンダによって洗脳されていく恐怖、教育自体に国や
軍が介入することの危うさが描かれた。
これだけ異常な世界を経験しているのに、日本の国民はA級戦犯
に対して随分寛容だなと思う。
今の価値観で語るのは難しいのかも知れないが、戦争を決断
した政治家たちの子孫が現代の世の中でも国政を担っている辺り
が、日本の凄さだと思う。

色んな所で国民が洗脳されている事が伺える。
セリフの中には日本は神の国であるとか、死して悠久の大義、
君臣の大義を得よとか、大君の赤子だとか、大人が語るもの
ならばまだしも15歳前後の生徒がそのような主張をする辺り
とても痛々しい。

子供達を洗脳するのが容易であるかのように、講堂での時局講演
はすさまじいものがあった。
坂町孝之助のセリフは有る意味、良い行いの場で使われる言葉
ならば凄く心に響くものが有ると思うが、この場で使われると
気味の悪い物以外の何者でもない。更にもっとも戦争に対する
拒絶感を持っていた笠井が、反転して志願に率先し出す所など、
状況が絶望的だった事が伺える。

ただ一度始まった戦争に於いて、我関せずの姿勢を取る事は
確かに非国民に写らないこともないし、個人のエゴにも見えて
しまう複雑な状況だなと。

坂町とか笹塚とか自分の使命感・役割を全うしたのかもしれない
けれど、終戦後にこういう人たちは世間に顔向け出来たのだろ
うかという気がするし、校長の村田にしても自分の息子も
戦地で戦死している事を挙げて他人にも同様の事を求めると
いうのは教育者として違う気がする。

ヴェルレエヌの詩を引き合いに出して、言葉の美しさに悲しみ
が浄化されるとしたけれど、言葉の持つ影響力の凄さが満面
なく描かれたドラマだなと思う。

"巷に雨の降るごとく. わが心にも涙ふる。 かくも心ににじみ
入る。 このかなしみは何やらん?
"

小説の結末を書くのは物語の主人公ではないとするように、
個人の人生や夢や希望というものが、自分の決断だけでは
決められないとする悲しい時代の物語で、まさに現実ではなく
小説の中の世界の様だね。

どの人物も演技が上手かったと思う。


藤山正美 …… 池松壮亮 (端艇部に所属)
藤山順一 …… 高橋克典 (愛知一中の英語教師)
笠井光男 …… 太賀 (端艇部に所属)
藤山明子 …… 鈴木砂羽 (正美の母)
坂町孝之助 …… 福士誠治 (愛知一中の配属将校で卒業生)
笹塚清志 …… 平田満 (愛知一中の体錬教師)
山村登美 …… 夏川結衣 (光男の母)
村田宗憲 …… 竜雷太 (愛知一中の校長)
滑川元 …… 佐戸井けん太 (愛知一中の修身教師)
永沢敏治 …… 近藤芳正 (愛知一中の歴史教師)
北林誠一の母 …… 濱田マリ (順一が受け持つクラスの生徒の母)
木崎忠男 …… 木咲直人 (愛知一中の5年生)
佐々木一紀 …… 吉田雄樹 (愛知一中の5年生)

多田木亮佑、寺井文孝、佃典彦、出口高司、池田充、久川徳明
宮本浩二、長村航希、上田智也、山内庸平、伊藤玄起
坪井憧、鈴木駿、原田賢治、板野公康、吉田憲祐

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