生誕百年・松本清張ドラマスペシャル

顔〜男の顔がスクリーンを飾る時
…待っているのは栄光かそれとも破滅か?


原作/松本清張
脚本/中園健司
演出/伊勢田雅也
音楽/佐橋俊彦

http://www9.nhk.or.jp/drama/kao/


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"最早戦後ではない"が流行語になった昭和31年の東京。
映画は最盛期を迎えていた。
劇団「白楊座」の俳優の中で看板女優の葉山瞳は石井監督の
映画"春雪"に抜擢される。そのバーターとして劇団から4名の
脇役が出演できると杉本から聞かされる。劇団での芝居と違っ
て映画は多くの人の目に触れる。顔が売れるのは勿論、金にも
成ると聞かされ、井野良吉も期待に奮わせるが、それとは逆の
感情に嘖まれていた。杉本は井野が緊張強いと考えているが、
井野は全く別の心配をしていた。
映画は全国の無限の客が見る。そうなると"あの男"が見ない
保証はない。しかし映画でのアップのシーンはほぼワンカット
だけだと思いこみ、なんとか仕事をこなしていく。

映画は絶賛され、特に脇役の井野のニヒルな風貌が際立つと
評価される。石井監督はそんな井野に対して次の映画にも出て
欲しいと要望を出す。演技力に加えて、独特のマスクに賭けた
いという監督の言葉に、杉本もこのチャンスを逃すなと応援
する。
僕の顔にはそんなに特徴があるのか?杉本に思わず尋ねる井野。

昭和22年、山陰線。
井野は当時付き合っていた山田ミヤ子と共に、福岡県の矢幡を
飛び出し、島根県の温泉津に行こうとしていた。
混み合う列車の中で偶然ミヤ子が勤める酒場「初花」の常連客
の一人・西岡貞三郎に出会う。彼の故郷がこの辺にあると聞か
される。井野は彼が居なくなったのを見ると一体誰なのかミヤ
子に尋ねる。鉄鋼関係の仕事をしている人だという。ミヤ子は
井野がヤキモチを焼いたのかと思い嬉しい気分になる。
温泉津の宿に向かう途中、井野は近道だとして脇道に入ってい
く。休憩地で彼女が妊娠しているのを知った井野は、ミヤ子に
堕ろすよう告げる。初めて出来た子供だから絶対に嫌だという
彼女。私から逃げるつもりか?卑怯者と彼女は告げ、絶対に貴方
から離れないと語る。雨が降ってくる中、井野は戦地での事を
思いだし、突然彼女の首を絞めて殺してしまう。

井野は8年間の調査報告書を眺める。井野は西岡の消息を毎年
興信所に調べさせていた。

瞳から食事に誘われる井野。いつも井野の演技を勉強させて
貰っているという彼女。井野は何処か人を拒絶している所が
有ると聞かされる。瞳は映画を観たファンからサインを求めら
れる。そのファンは井野の事も覚えており、サインを求める。
あんな端役なのに覚えている人が居ることに恐怖を感じていた。
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昭和の時代の戦争の傷跡が残る時代性を反映したようなドラマ
だった。

過去にもドラマ化されているので内容は知っていたが、この手の
題材は時代背景や舞台設定を変えてよく使われる要素なのかも
知れない。犯罪心理の視点から面白く描かれた作品だと思う。

大勢の人に役者として顔を覚えて貰い名声や金を得たいのとは
逆に、たった一人の人物に対してだけはその顔を知られたくない。
俳優でなければまず間違いなく迷宮化するような事件で有って
も、犯人に与えられた才能は演技者としての能力だったとする
辺りがとても皮肉なものだ。

欲望と破滅が表裏一体として存在している複雑なシチュエーシ
ョンが興味深く、破滅に対する念が強い時には事実は発覚せず、
欲望が勝ってくるのと同時に西岡に見つかってしまうという
絶妙なタイミングが良くできている。

アメリカの映画などを観るとベトナム戦争に於ける心の傷を
負った人物が登場する作品は多いが、近年の日本では戦争は
過去の物となっているのかこの手の設定が加味されることが
殆ど無くなっているような気がする。

とても複雑に感じるのは、井野はミヤ子を殺したにもかかわらず、
東京に出てきた後、ミヤ子に似ている女優・瞳に対して抱いて
いる感情そのものだ。
何故そんな彼女の居る劇団を選んで所属しようとしたのか。

看板女優だった瞳が徐々に主役の座を奪われていく事で、この
ドラマが長編化するのならば、瞳が井野を蹴落とそうとする
過程で井野の過去を知って西岡と手を組んだりするのかなと
思わせる。

昭和の夜の女を演じさせたら右に出る者が居ない美保純さんが
脇で登場したり、アパッチけんこと中本賢さんや元男闘呼組の
高橋和也さんが出演。

個人的に高橋和也さんを見るといつも西村知美さんの旦那さん
に間違ってしまう。

井野良吉 …… 谷原章介 (劇団「白楊座」の俳優。)
葉山瞳/山田ミヤ子 …… 原田夏希 (劇団「白楊座」の看板女優。)
西岡貞三郎 …… 高橋和也 (八幡で鉄鋼関係の会社に勤める)
杉本 …… 中本賢 (劇団「白楊座」のマネージャー。)
女給 …… 美保純、(酒場「初花」の同僚。)
田村刑事 …… 大地康雄 (ミヤ子の殺人事件を担当)
中江刑事 …… 瀬川亮 (田村刑事の部下)
石岡美智子 …… 押元奈緒子 (石岡の妻。)
石井監督 …… 塩野谷正幸 (映画界の巨匠。)

建蔵、伊藤聡、谷本一、針原滋、原田麻由、大久保麻理子
篠原真衣、末広ゆい、和泉敬子、林遼威、佐藤博秋、井之上淳
吉原拓弥、中垣浩二、竹本純平、石原茂史、ミヘール・ラインダス
中村圭太、古閑三恵、嶋本勝博、柴田茉莉、五十畑哉邦
水野倫太郎

評価:★★★★★★☆☆☆☆ (6.0)

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