ドラマ・心の糸 
(2010年11月27日・NHK 21時)

原作/龍居由佳里
音楽/千住明
制作統括/土屋勝裕、磯智明
演出/東山 充裕

http://www.nhk.or.jp/nagoya/ito/


「音のある世界とない世界〜異なる世界に暮らす母と息子の愛情と
心の絆を描く感動作」

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永倉明人は自転車で急いでスーパーにやってくる。
母・
玲子がレジの前でトラブルを起こしており、喋ることの
出来ない母の通訳の為にやってきたのである。玲子は1万円を
出したにもかかわらず5千円で処理した事が問題だった。

母の手はいつて話していた。それを音にするが僕の仕事だ。

玲子は親戚の
まるはし水産加工ゴマフグの卵巣の毒抜きの仕事
をしていた。ゴマフグの卵巣の毒は、塩につけて1年、ぬかに
付けて2年、そして魚醤につけて毒を抜く。

明人は芸大を目指し、ピアノのレッスンに通う。
雨宮から指導を受けるも、明人のピアノには自分が無いとし、
楽譜通りの音楽では芸大には受からないと言われる。

その頃、永倉家が住んでいる
市営北湊住宅では、老朽化のため
に役場と住民で話し合いが行われていた。立て替えが行われる
為に、仮住宅に住んで欲しいとする役場の
遠藤。しかし住民
である
菅原、平戸、中林などは不満を表明し、次々と質問を
繰り返す。玲子も仮住宅にピアノを置くスペースが有るのかど
うかがもっとも気がかりだった。

明人が幼稚園の頃、通っていた保母の
花岡から、音感が良いと
誉められた事がきっかけ。母は息子にピアノが好きか?と尋ねる
と大好きだと応えたことで、ピアノの道を進むことになった。
生まれつき耳が聞こえない母は、聞こえる人として生まれて来た
事が嬉しかったみたいだという。初めてピアノが来たとき、
玲子は音は聞こえなかったが、床に響く振動によってその音を
感じていた。

明人は一人行き詰まっていた。
ピアノのレッスンで、
宮越圭子先生からも力みすぎだと言われて
いた。しかも帰りに彼女のリサイタルチケットを購入させられ
6万円の出費。生活にカツカツの母にはとても言えそうには無か
った。
帰り道に路上ライブしている人たちを見て、明人は虫の居所も
悪かったこともあり、キーボードをしていた
大貫いずみに対して
ヘタクソと思わず呟く。相手には聞こえないくらいの場所で
呟いただけだが、いずみは明人が言おうとしていたことを感知
していた。

町中を歩いていると、突然同級生の
都築翔太に声を掛けられる。
しかし相手は明人の事を
"ピアノ"と小馬鹿にしたように語り
かける。明人はその場から立ち去ると、翔太は店から出てきた
男達(鶴丸興業)とぶつかり、その場で乱闘になる。そのあおり
を喰らって明人も巻き込まれてしまう。
警察に一緒に連れて行かれた明人だが、単に巻き込まれただけ
だと分かりすぐに釈放される。翔太も兄・
克巳が迎えに来る。
翔太は兄から喧嘩した相手は、
鶴丸興業の構成員だとし、父親
に迷惑をかけるなと怒られる。
座っている翔太は通りかかる明人に再び"ピアノ"と声を掛ける。
明人も負けずに"ヤクザの子"と呼び返す。
翔太は明人に、喧嘩に巻き込んだ事を謝罪。自分は父の跡を
継ぐのではなく善良なサラリーマンになりたい事を口にする。
普通なのが良いと語る。

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玲子は生まれつき耳が聞こえず、そんな彼女の唯一の喜びは
息子の明人が芸大を目指してピアノを弾く事だった。
その為には苦労も厭わないとばかりに、働きづめの生活を送って
いくが・・・

耳が聞こえず話す事が出来ない人は、夢というものにも限界が
有る。無限の夢を持つ事の出来る音のある世界の住民たちとの
違いを描きつつ、ドラマでは、母の思いに人生を犠牲に
している息子が、母親としての夢ではなく自分の夢として
新たに再出発することを描いた話だった。

テーマとしては夢なのかな。

冒頭から設定がよく分からず、とまどう部分が有ったけれど、
徐々に一家を取り巻く環境が描かれていき、母親がどれだけ
息子の夢に賭けているのかが描かれた。

一番目に付いたのが、松雪泰子さんの透明感の有る存在だった。
日テレの「Mother」と同様にハンデを追う役というのがとても
似合うな。玲子といずみが語るシーンが有るけれど、周りの音を
無くすという演出は、興味深い試みだった。

母親が息子に求めるものは、どちらかといえば別れた夫に対する
意地で有ったり、世間から耳が聞こえない人が子育てすること
に難しいとされている事への反発心であることから、純粋な夢
という訳ではない所が微妙な点だ。

そんな事実を見透かされた様に、息子の弾くピアノの音にも
楽譜以外の音楽というものが無く、迷走している状況だ。

ドラマでは関わってくる人たちが、主人公に対して足りない
ものを指摘し与えてくれる形で軌道の修正を果たすが、人との
出会いの重要性を実感すると共に、同じ聾唖者でも、母と大貫
いずみの違いを描いたところは上手く描かれていた点だ。

結婚というもの、そして子供を持つことによって、親の立場
と子供の立場では、同じ聾唖者でも随分視点が違い、いずみの
若々しいバイタリティに溢れる感じと、世間の荒波に押されて
疲弊して居るであろう玲子の存在がなんとも皮肉で息苦しく
感じる。

そんな玲子もかつてはいずみ以上にバイタリティを持つ女性
だっただろうし、聾唖者だけでなく、人生に行き詰まっている
ものたちへ心に染み入る言葉を残している辺りが、出来すぎ
とは言え面白く玲子という人物を描いた内容だった。

明人がヤクザの家に育った同級生と形は違えど、共通するもの
が有って不思議な価値観の共有が存在している辺りも面白い
間柄だったな。


永倉玲子 …… 松雪泰子 (聾唖者)
永倉明人 …… 神木隆之介 (高校生、芸大を目指す)
大貫いずみ …… 谷村美月 (聾唖者、美容師を目指す)
丸橋郁雄 …… 石橋蓮司 (玲子の叔父、水産加工会社経営)
宮越圭子 …… 山下容莉枝 (ピアノのプロ)
都築翔太 …… 染谷将太 (明人の同級生、ヤクザの子)
大貫和美 …… 中島ひろ子 (いずみの母)
大貫勇作 …… 小林蓮 (いずみの弟)
都築克巳 …… 井坂敏哉 (翔太の兄)
遠藤 …… 多田木亮佑 (市役所職員)
店長 …… 伊沢勉
平戸 …… こじまけいこ (近隣のおばちゃん)
天宮 …… 堀田和則 (ピアノ講師)
古川直人 …… 池戸陽平 (明人の父、ガンで死去)
古川 …… 藪下貴子 (直人の妻)
警官 …… 田中靖浩
銀行員 …… 湯浅浩史

阿部亮平、貴田みどり、津田絵理奈
加部亜門、鳥居美江、早川けい、小島範子、黒田啓之
知嶋大貴、高橋賢一、堀田貴裕、福井泰介、大崎義弘
鎌田直樹、浅見碧、矢野貴大、景山葉月
Rainbow Devils Land (かなんちゅ、TAKA兄ぃ、KaZ、Hiroking)


評価:★★★★★★☆☆☆☆ (6.0)



NHKドラマ「心の糸」が特別賞受賞

NHKに入った連絡によると、モナコで開かれていた第51回モンテカルロ・テレビ祭で10日(日本時間11日)、昨年11月放送のドラマスペシャル「心の糸」が、特別賞の「AMADE/ユネスコ賞」を受賞した。
2011/6/11


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