ヤングシナリオ大賞2010
さよならロビンソンクルーソー

原作・脚本/野木亜紀子
プロデュース/東 康之、喜多麗子
演出/宮木正悟




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慶介ハナ
二人は恋人同士でもなく、友達ともちょっと違う。
月に一度エールを送る同志だった。
二人は互いに一ヶ月にどれだけ稼いだのか比べ合う。

ハナはバンドマンをしている
成雪の為に援助していた。17万円
を手渡すハナにいつも有り難うと成雪。
慶介も同棲している
美也の為に15万円を置いていく。美也は
新しいバイトをするからと告げ、今度の職場は頑張れそうだと
いう。彼女にはリストカットの傷が手首に痛々しく残っていた。

僕たちは僕たちの方法で愛する人を助けているだけ・・・

ゴミは一日700t出て焼却するのはそのウチの600t。一日100t
増える計算だが、パンクするという話を聞いたことはない。
慶介は
民間清掃会社"光風環境"で、ゴミを集めるのが仕事だった。

ゴミ回収の巡回のため柴田や竹中と回るが、慶介以外は一切
ゴミを回収する素振りも見せず、ただ慶介の仕事を見ている
だけ。柴田は気にする様子を見せるが、竹中は助手席で慶介が
仕事する間に寝ているだけ。
仕事に不満はつきもので贅沢を言ったらきりがないと慶介。
毎月給料がもらえご飯が食べられれば十分。ボクには美也が
居ると言い聞かせる。
一緒の布団で寝るも、今日は嫌だとHするのを断られる慶介だ
が、10回続けて断られても幸せであり、この幸せが続くことを
願っていた。

美月記念病院の看護師として働いていたハナ。
慶介とハナはこの病院で知り合う。
美也がリストカットをした際に、深夜の緊急外来でやって来た
時のこと。美也は三度目のリストカットで、待合室で待って
いた慶介にハナが語りかける。手首の動脈は思っている以上に
深い所にあるから大丈夫だという。ハナは自分のことを見たとき
自分と同じ臭いがしたと、その後聞かされたという慶介。

僕たちは見返りを求めているだけでなく、愛する人と幸せに
なりたいだけ。他人には理解されないので、語ることもなく、
分かってもらう必要もないという。

慶介は職場の駐輪場に停めていた彼の自転車のサドルを、何者
かが意地悪して外していた。仕方なく立ち漕ぎして帰宅するが
ブレーキまで切られており、いざブレーキを掛けようとした時
に止まれず、男の子とぶつかってしまう。
男の子・
は軽傷で済んだが、そこの母親は教育ママであり
息子は私立に入る予定だったのだと告げ、損害賠償として
1千万円を要求する。夫は妻を宥めるが、慶介に対して何も
しないという訳にはいかないので30万円を用意して欲しいと
言われ、慶介も了承する。しかしその金を捻出する当てもなく
慶介は消費者金融に手を出そうとするが・・・

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互いに好きな相手のために金を渡し続ける慶介とハナ。
無償の愛情だとするが、徐々にそんな生活が負担になり、つい
には自らを傷付けていく。

色々と複雑な思いにさせてくれるという意味で、良くできた
物語だった。
世の中優しさだけでは、どうにもならないことを端的に描いた
もので、無償の愛を貫くことの難しさと、頑張る原動力を求め
るためにも見返りというものが有る程度必要である事が語られる。

まるで四面楚歌のような慶介に降りかかる生活環境の悪さが
そんな良い人の心を蝕んでいく所が、とても切なくさせる。

美也の圧倒的な美しさを見れば、男性にとって頑張れる理由には
なるけれど、そんな彼女の外見とは余所に、他人を気遣う事の
無い姿に、失望するものがあった。

男性にとって都合の良い女性は、人形のような可愛さで、常に
微笑んでくれる様な印象も有るが、互いに刺激し、助け合える
対等な関係というものが生活には必要だなと思う。

慶介の親たちとの関係についても言及されるが、プライドの高さ
とは逆に、ちっとも自活していない兄の姿が笑えた。
せめてこの実家が金持ちで、今の仕事に成功を収めている家庭
ならば分かるのだけど、プライドだけが大きく成りすぎている
という設定は、少々滑稽すぎるものがある。

ハナと成雪。ハナは随分理解ある女性だった。
昔の女性のような忍耐力で男性を支える現在では死滅したよう
な女性像なのか。
成雪の場合、音楽活動に対してそれなりにやる気は有るようで
ライブハウスにも人が集まっている様だし、ハナが十分に操縦
出来そうな感じもするけど、やはり怒りの矛先をハナにぶつける
というのは、見ていて痛々しいものがあった。

ゴミの仕事は人が嫌がる様な仕事だけど、慶介がプライドを
持って行っている所が、とても彼の人間性を浮かび上がらせる。
竹中とか柴田とか論外だけど、見てくれている人がいるって
だけでもかなり救われる思いがするかな。

しかしなんでエンディングが韓国の曲?

梶谷慶介 …… 田中圭 (民間清掃会社"光風環境")
宮内ハナ …… 菊地凛子 (美月記念病院ナース)
橘美也 …… 蓮佛美沙子 (借金、リストカット)
成雪 …… 綾野剛 (バンドのボーカル)
梶谷惣一 …… 渡邉紘平 (慶介の兄、無職)
三上 …… 鈴之助 (バンドのメカバー)
上司 …… 岸博之 ("光風環境"の上司)
竹中 …… 宮川浩明 (慶介の同僚、働かない)
柴田 …… 金井俊太郎 (慶介の同僚、働かない)
バンドメンバー …… 楠瀬拓哉、三輪達宏
梶谷馨 …… 杉野なつ美 (慶介の母)
梶谷志乃 …… 宮内順子 (慶介の祖母、唯一優しい)
ゴミ捨て場の主婦 …… しのへけい子
翔の父 …… 中脇樹人 (慶介と妻の仲介役、30万円で・・)
翔の母 …… 笠木泉 (息子は開明小学に入る予定だったと。)

川口圭子、すぎもとみさき、宮本京佳、吉田エマ、滝田匠
日丸珠菜


評価:★★★★★★★☆☆☆ (7.0)

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