ドラマスペシャル 「雪冤(せつえん)」
(第29回横溝正史ミステリ大賞受賞作)
(テレビ東京賞)

原作:大門剛明
脚本:西岡琢也
監督:黒沢直輔
音楽:栗山和樹
チーフプロデューサー:小川治
プロデュース:橋本かおり、小畑良治、椿宣和

http://www.tv-tokyo.co.jp/setsuen/


〜死刑囚の息子は無実だ冤罪を訴える父に届く密告電話!
沈黙の15年に秘められた衝撃の真実!〜


--------------------------------------------------------
新聞配達をする八木沼悦史。
仕事が終わると府中駅前で、息子の再審請求のためのビラ配り
を行う。15年前の事件で息子・慎一が友人2人を殺害された罪
で死刑判決を受けていたのである。

コンフォート病院の渡辺道徳弁護士を訪ねる悦史。
そこには慎一の弁護士を長年務めてくれた弁護士が入院していた。
渡辺から石和洋次弁護士を紹介され、彼が慎一の弁護を引き継ぐ
という。ロンドンでミュージシャンになり損ねたという。

早速石和は慎一に面会に行くとの事。悦史は死刑判決後、4年
間一度も逢っていないという。息子の方が面会を拒絶している
とのこと。冤罪を臭わせる手紙が息子から届いたことで、真相
を調べる決意が固めたと共に、息子からは絶縁宣言されたと
いう。石和は悦史に雑誌の取材をセッティングした事を語り、
新証拠を集めるためにも取材に応じるよう告げる。

いつものように悦史は駅前でビラ配りをしていると、通りかかる
男たちからは罵声を浴びせられる。潔く死刑になれと言われ、
被害者の遺族の気持ちも考えたことがあるのか?といわれる。

悦史は雑誌の取材で雑誌記者の恭子と逢う。
そこで1995年4月1日に起きた事件のことを改めて語る。

その日、慎一は大学の同級生の沢井恵美の家を訪れる。
沢井の両親が不在にしているとの事で、長尾靖之も来ていた。
慎一の自供によると、当時恋人だった恵美が裏切って靖之と
関係しているのを見た為に、台所から包丁を持ち出し殺害した
というものだった。家から出て行くところを恵美の妹・菜摘に
見られたのが唯一の目撃証言で、裁判ではすんなり容疑を
認めたという。
しかし今になって何故冤罪を訴え始めたのか?との問いかけに、
慎一の態度は不可解だったこと。何かを耐えている様で、
無気力で消極的な態度に終始していたことを告げる。単に
罪の重さに打ちひしがれているのではないか?といわれる。
その後悦史は弁護士としての仕事を廃業していた。

悦史は帰宅すると、差し掛けの将棋を見ながら、息子との事を
思い浮かべる。

菜摘は職場で、週刊論報という雑誌の記事に目を留める。
悦史が再審を訴えている事を知り愕然とする。

悦史が働く毎報新聞に、新人の持田良平がアルバイトとして
入ってくる。悦史が仕事係になり、一緒に新聞配達をしながら
色々と教えていく。良平が悦史のことを色々と詮索するも、
あまり人の詮索はしないでくれと告げる。

孝之と菜摘は雑誌の記事を見て悦史の元を訪ねる。
好き勝手によく言えたモノだと憤怒する二人。しかし悦史は
どうしても二人を殺したのが息子だと思えない事を告げる。
普通死刑判決が出てから6ヶ月以内に刑が執行されるものなの
に何故、息子さんは死刑にならないのか?と問い、心の底から
執行を待ちわびていると菜摘は告げる。

--------------------------------------------------------

心優しい息子の慎一が殺人を自白したことで死刑囚となる。
弁護士をしていて死刑制度に異議を唱えてきた最先鋒の
悦史は、それを揺るがす事態を次々と経験する事で、死刑制度
に対して明確な気持ちを失っていく。

被害者を見守る立場から突如として加害者の家族としての立場
を味わうことで、複雑な心情を生んでいく。

憎しみからは何も生み出すことは無いと分かっていながらも
人はそう簡単に割り切れるものではないのかもしれない。

ドラマとしては事件そのものよりも死刑制度に関する是非を
問うものだった。
先日死刑場が公開された事で、その再現性はかなり近いものが
あり、残酷さが増したような感じもする。

死刑制度を訴えていた人も、現実にその価値観を揺るがす事態
をぶつける事で、その気持ちにどう変化が現れるのか。
自分が唱えていた制度の反対に対して、それが具現化された時
のリスクというものを味わせたり、実際に身内を死刑によって
失わせるという過酷な状況をつきつけて、それでも制度は
必要か否かを求めていく。

ドラマで特徴的だったのは、死刑に関して一度は考えるであろう
色んな形の当事者たちを一同集めた形で構成され、それらが
ドラマを導いていく点である。何処に怒りの矛先をぶつけていく
のか、その判断さえ難しいもので、刑務官の気持ちなども踏まえ
て、その空しさを説いていく。

面白いのは複雑に絡み合う人間関係で、石和が慎一と関係が
有ったり、菜摘は慎一に対して感情を抱いていた事が分かる
など、妙な繋がりを感じる所だ。
悦史と河西の繋がりにしても、やや不自然だと思いながらも
シチュエーションとしてはかなり興味深いものが用意された。

残念なのはシナリオ上色んな所に粗みたいなものを感じる点か。

悦史は弁護士ならば、電話のやりとりをレコーダーで録音して
いても良いのではないかと思うところがあったり、施設に入って
いる車いすの人物がどうやって、悦史との取引の現場に来たのか
など違和感があった。

愛している人の名誉の為に黙って死を受け入れたとする点も、
もう少し石置き事件での責任感みたいなものを前面に押し出さ
ないと流石に無理が有るかな。

クレジットに出ていた朴ロ美さんって声優の人だよなぁ。


八木沼悦史 …… 橋爪功 (元弁護士)
石和洋次 …… 吹越満 (弁護士、渡辺弁護士の後を引き継ぐ)
沢井菜摘 …… 大和田美帆 (沢井恵美の妹。花屋に勤務)
八木沼慎一 …… 林泰文 (死刑囚、悦史の息子)
河西治彦 …… 本田大輔 (妹・明美と父を殺害される)
秋山梅蔵 …… 鶴田忍 (ホームレス)
沢井恵美 …… 浜丘麻矢 (慎一の幼馴染み)
長尾靖之 …… 神木優 (慎一の幼馴染み)
長尾孝之 …… 波岡一喜 (長尾靖之の弟)
渡辺道徳 …… 神山繁 (弁護士、糖尿病で入院)
秋山鉄蔵 …… 加藤武 (梅蔵の兄)
元刑務官 …… 石倉三郎

朴ロ美、吉見一豊、丸岡奨詞、野村昇史、山口眞司
小川剛生、嶋村英里、清水舞、新田海統、山内翔平


評価:★★★★★★☆☆☆☆ (6.0)

inserted by FC2 system