山田太一ドラマスペシャル
遠まわりの雨 

「20年ぶりの再会に燃える恋…大人の男と女がその一線を越え
る時…夫婦家族愛の行方!鎌倉極楽寺駅衝撃の別れに涙が止ま
らない…今だけ恋に落ちよう」



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大田区蒲田の職人達が集まる町工場・秋川精機に白人の男性と
その通訳の女性が尋ねてくる。秋川精機で働く従業員は、
社長の秋川起一とその妻・桜、そして城田、林、前島、菊池康
の6名。
外国人が用を済ませた後社長から発表が有る。
この半年苦労を掛けたが、今度風力発電の部品の一部にコンピ
ュータでは作れない手作りの部品が必要であり、この工場に
白羽の矢が当たったという。この仕事が取れれば崖っぷちに有
ったこの会社も蘇るというもの。絶対にウチが取る!として、
納期の10日の間に試作の部品を作ろうとする。しかしやり始め
様とした途端に起一は倒れてしまう。

前橋へと足を運ぶ桜はタクシーで福本家を訪ねる。
出てきたのは福本草平の妻・万里と娘の雪菜だった。
現在反抗期の15歳の雪菜は荒れていて部屋に有る物を当たり散
らして出て行った様子。万里に夫の職場の場所を聞き、彼が働
くホームセンター"ヤサカ家具"へと足を運ぶ。
桜は草平に逢う。草平は桜を見て20年ぶりの再会だが、変わっ
ておらず寧ろ綺麗になったと告げる。桜は夫が脳卒中で倒れ
金型を作る職人が居ないために、20年前に秋川精機で働いて
いた草平になんとか助けてくれないかと頼む。この仕事が取れ
なければウチはもう終わりだと告げる。

桜は元々草平と付き合っていたが、後から付き合うことになっ
た起一と結婚して工場を引き継いだのである。腕は草平の方が
上だったとして助けを求めるが、20年ぶりでは腕もなまった事
を告げる。しかし実際にはシキシマ工機で2年前まで働いていた
事実を桜は知っていた。草平は現在家庭も仕事でも余裕がない
として断るのだった。

大田区総合病院に入院している起一は、綺麗な格好をしている
妻の桜の姿を見て誰と逢ったのか?と尋ねる。誰にも逢っていな
いと最初は告げるが、草平と逢ったことを告白する。その名前を
聞いて起一はオレが割り込んで奪ってしまったと告げるが、
桜は私がアンタに乗り換えたのだとして気遣いを見せる。
起一はアイツには助けられたくないし、こんな姿を見せたくない
という。それにアイツが助けようとは思わないだろうと語る。

翌日草平は秋川精機にやってくる。従業員たちは彼を不審に思う
が20年前ここで働いていたものだと告げ、取りあえず図面だけ
でも見ると告げる。そして社員達に納得して貰うために、軽く
轆轤を絞って金型を作ってみる。凄い腕の持ち主に従業員たち
も驚く。

草平は一度帰ってしまうが、夕方に電話をするとまだ帰宅して
おらずホテル末広のレストランに居ることを知り桜は会いに行く。

引き受けてくれるのか?
難しい図面だから出来るかどうか・・・
でも残ってくれるからここに居るんでしょう?
と桜は告げる。来てみたら帰りたくなくなったという草平に
喜び、早速泊まるホテルに行こうと告げる。しかし草平は助っ人
としてやってきて妻と寝たのでは申し訳ないとして、一緒に
ホテルに行くのは拒むのだった。

翌日従業員たちと改めて顔合わせするがゆっくり仲良くなる時間
は無いとして、軽く挨拶した後、従業員達に仕事の割り振りを
与える。その前に起一に挨拶に行かねばならないとして病院へと
足を運ぶ。二人は久しぶりの再会に喜び、当時の事を懐かしむ。
起一は、オレは桜と草平の仲を知って割り込んだと告げるが、
草平は桜もお前に嫁いで良かった事を告げる。奥さん一人の
所に泊まるわけにはいかないのでホテルを取った事を告げる。

そんな中、万里が工場までやってくる。
万里は夫が工場で働いているのを見ると、こんな所で何をして
いるのかと告げる。やらないといけないのは余所様の所ではなく
自分の家庭だと告げる。草平は今の仕事に不満を漏らし、もう
客相手の仕事はウンザリだと告げる。だからといって娘から
逃げるわけにはいかないとして、反抗期にある娘への対応を
迫る。娘はもう15歳だし、怒ってどうなるものでもない事を
告げる。
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倒産しそうな昔ながらの町工場で、千載一遇のチャンスが回って
くる。遠くヨーロッパの企業が風力発電の為の部品を日本の
町工場で制作出来るかどうかを依頼してくる。
しかし肝心な時に、社長の起一は脳卒中で倒れてしまう。
妻の桜は昔工場で働いていた草平に助けを求める。

20年間も離れて暮らしていたという感じがしない程、どちらも
若々しい中年たちが演じたドラマという感じ。
ただこのドラマで残念なことは20年前のエピソードが一切映像
として写されずに言葉だけで消化され、視聴者としては言葉から
発せられる想像力に頼るしかない部分が存在する点だ。

草平は昔気質の職人という事で、工作機器と向き合うのが得意
では有るが、人と向き合うのは苦手というある意味ベタな設定
で有り、それが原因かどうかは分からないが娘が反抗期真っ最中
で子育てには気難しさが存在する。

不本意な形で別れてしまった桜と草平が、20年ぶりに再会する
時、当時と同じような気持ちで向き合うことが出来るのか。
草平と起一の男性同士の微妙な空気と、桜と万里の女性同士の
心情が面白いように浮かび上がる。

子供には親の働く姿を見せることが教育にとって良いとばかりに
それを娘に実感させる。
ただ正直、福本家の有る前橋と秋川の工場が蒲田は埼玉県を縦断
していくだけ有って距離としてはそれなりに遠く、運賃だけでも往復4千円
以上することを考えると、娘はあの場面で父親に会いに行くだろうもの
だろうかという気がしないでもない。

コンピュータと職人としての腕はどちらが優れるのか。
昔の草平ならばコンピュータになど負けない気勢が有っただろう
し、今回の件でコンピュータが割り出した計算の結果あっさりと
完璧な物が仕上がってくる現実に、一つの区切りや踏ん切りが
ついたのでは無かろうか。

ただ頼られて仕事を請け負った手前、結果を出したかっただろう
事と、プライドの関係で金は受け取れないとする辺りの無念さ
はよく感じることが出来る内容だった。

ドラマでは草平と桜の20年来の恋愛感情とは別に、草平一家の家庭
の事情も深く描かれる。夫として妻や娘に何が出来るのか。
娘に対しては父親の無言の背中を見せることで上手く説得を見出して
いくが、妻に対するエピソードは圧倒的に弱く、主人公自身に至っては
現実逃避したままの後味の悪さは存在する。
上述した夫の職人としてのプライドで賃金を突っぱねる辺りも、現実的
立場で金を要求すべきだとする妻と恥ずかしくて受け取れない
とする夫の立場の違いが夫婦といえどもすれ違いの妙を描いている。

20年前にやり残した鎌倉でのデートのやり直しを行うことによって
空白だった人生を埋める桜とは対照的に、逆に感情を高ぶらせられた
格好の草平が置き去りにされる所など、男女のすれ違いがまた
面白いように現れた。

ちょっと娘とのエピソードが出来過ぎており、娘がわざわざ自分の心情を
両親の前で語る辺りの演出は、正直要らないのではないかという気が
する。

福本草平 …… 渡辺謙 (職人、現在群馬県前橋に住む)
秋川桜 …… 夏川結衣 (秋川精機経営、起一の妻)
福本起一 …… 岸谷五朗 (秋川精機・社長、職人)
福本万里 …… 田中美佐子 (草平の妻)
菊池康 …… AKIRA (秋川精機・コンピュータ技師)
福本雪菜 …… 川島海荷 (娘・15歳、プチ反抗期)
多田 …… 井川比佐志 (蒲田に住む元職人)
ともえ …… YOU (謎の女性。飲み屋で草平に声を掛ける)
城田 …… 近藤芳正 (秋川精機・職人)
前島 …… 日野陽仁 (秋川精機・職人)
林 …… 渡邉紘平 (秋川精機・職人)
ホテルフロント …… 藤村俊二 (ホテル"末広")
極楽寺の駅員 …… 柳沢慎吾 (一番最後に登場)
スナック麗子のママ …… キムラ緑子 (草平と桜と盛り上がる)
クレームの客 …… 筒井真理子 (ヤサカ家具でクレーム)

伽代子、土井よしお、石堂夏央、ぶっちゃあ、杉村時男
奥村友美、北村友彦、中橋織香、Martin Lund

評価:★★★★★★☆☆☆☆ (6.0)

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