映画 相棒シリーズ X DAY
(公開日:、2013年3月23日)

監督:橋本一
脚本:櫻井武晴
製作総指揮:桑田潔、白倉伸一郎 




 

「俺たちは、何と戦っているんだ?」
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東京明和銀行の本社ビル前で男性が落下して亡くなる。

すぐに通報を受けて駆けつけたのは警視庁・捜査一課や鑑識
だった。米沢によると、被害者は東京明和銀行の本店システム
部の中山雄吾で、死亡推定時刻は昨夜20日の夜9時頃だという。
遺体の回りには一万円札が焼け焦げたような跡が有り、
帯封がしてあることから100万円が燃やされたのではないか
というもの。しかし被害者のサイフからは金は抜き取られては
いないという。封筒が焼け残っているのでその中に100万円
が入っていただろう事を告げる。
ビルの屋上には争った形跡が有るがげそ痕は取れなかった。
被害者の所持品の中にライターがあり、そのライターの火で
燃やしたものなのかと疑う。

サイバー犯罪対策課小田切亜紀岩月彬は動画サイトに
繰り返しアップされている動画のことを調べていた。
何らかのデータであり、投稿者のハンドル名はjustice11
2012年6月13日にアップロードされており、一体何のデータ
なのか。その接続先を調べていると色んな他人の端末を経由して
おり、行き着いた先は中山雄吾だった。
岩月は現場で捜査しているトリオたちの前で、その事実を語り
被害者が銀行員だとすると、恐らく銀行のデータ・情報を
不正に流していただろう事を告げる。すると芹沢たちはこれか
ら中山の家に家宅捜索するので同行して欲しいとするが、
被疑者を特定するまでが僕の仕事であり、殺人を逮捕するのは
僕の仕事ではないという。それを聞いた伊丹たちはこんなやる気
の無いヤツを同行させる必要もないし、パソコンが見つかって
もブツは渡さないと語る。

家宅捜索すると中山は独身だが雑誌などの傾向から女性が居た
であろう事は分かる。パソコン内にデータはないが、室内の指紋
の傾向を見ると、中山以外の人物が何かを探していたような形跡
があるという。

一方サイバー犯罪対策課の課長・九条弘毅の元に岩月は今回の
justice11事件の報告をする。

八重洲三丁目銀行員殺人事件として、捜査本部が立ち上がる。
一万円札とそれを入れていた封筒から二人分の指紋が検出され
ており、中山以外にもう一つの指紋が検出されていることを語る。
中山のカバンと室内からも指紋が検出されているとのこと。

その頃、首相補佐官の片山雛子が掲げている「改正通信傍受法」
法案に関して、財務省族議員戸張弘成は興味を示す。
元々この法案を通す目的は海外からのサイバー攻撃を防ぐという
もので、関係各所が容易に情報を開示したり、情報を削除する
ことの出来る法律だった。先日も日本政府へのサイバーテロ
が起きたばかりで、日本はセキュリティの甘い関係部署が多い
という事情も存在していた。しかしこれまでその法案を巡り、
関係省庁内では主導権争いが激しく、誰もが法案を通すことを
拒絶していたのだが、突然反対の立場を表明していた財務省の
議員から声がかかった意図が不明だった。勉強会を開いて欲しい
という要請であり、そこには金融庁関係者も参加したいと語る。

その頃、角田ら組織犯罪対策5課(組対5課)では翌日に覚醒剤
を買い占めしているものたちの一斉摘発を前にして、特命係
にも協力を求めたいところだったが、右京は休暇をとりロンドン
に滞在していた。こんな時に不在にしているなんて・・・と
角田は呟く。

そんな中、世間では突然東京明和銀行で、システム障害が起きて
お金の出し入れが出来なくなる事件が起きる。
その事実を東京明和銀行の法人営業課の麻生美奈は朝のテレビ
のニュースで目にしていた。
金が引き出せないと知って、芹沢は陣川の元にいき、今すぐに
経費の申請を通して欲しいことを訴えるが、出来ないと断られる。

伊丹と八重洲署員渡辺は、捜査のために東京明和銀行本店を
尋ねる。銀行には金を引き出そうとする人たちで溢れていた。
そんな中、岩月も東京明和銀行を尋ねてくる。彼は不正アクセス
の件での捜査から東京明和銀行に辿りついた格好だった。

東京明和銀行のシステム部・システム企画室長である朽木貞義
と面会する。中山の上司であり、岩月は現在動画投稿サイト
などインターネット上に流れているデータが、この銀行の何ら
かのデータではないのかと問う。すると伊丹たちの前で朽木は
全銀行システムのシステム障害が起きた際の対策マニュアル
である事を告げる。中山がインターネットに流出していた可能性
が高い為にパソコンが有れば渡して欲しいと語る。データは中山
が一人で作ったものでネットに流出していることは知らなかった
との事だった。どこからか削除依頼も出ているのだが、その
件についても知らないという朽木。とりあえずそのマニュアル
の提出を求めるのだった。

帰り際、伊丹は岩月たちに、あの上司の朽木は中山がネットに
データを流出させたことを知っていた事を語る。しかし岩月は
マニュアルを流出させたところで殺人する程のことではないと
語る。データがマニュアルとは違うものであるならば、捜査
二課の財務捜査官たちに調べてもらうべきだと岩月は語る。
しかし伊丹はそんな事をしたら殺人捜査に於いて複雑なことに
なるとしてそれを止める。くだらない縄張り争いなのかという
岩月に対して、本筋を見失う可能性があることを話しているの
だと告げる。そんな岩月は、伊丹ら現場の職員は自分たち
専門捜査官を普段は道具としか見ていないとして、非難する。
伊丹は中山の恋人・麻生美奈は、この銀行の同僚であることを
告げこれから取り調べをする事を語るが、岩月は殺人捜査は
僕の仕事ではないとして同行するのを拒否しようとするが・・・
しかしいざ麻生に会って話を聞くと、彼女は対策マニュアルに
関して、私たちの部署ではそれを見る機会はないので何のこと
か分からないと語る。
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東京明和銀行のシステム部の男性・中山が突然自社ビル前の
ゴミ置き場の中から遺体として発見される。当初単純な金銭
絡みの殺人かに思われたが、彼が銀行の何らかのデータを流出
せていたことが判明する。それを知っていたと思われる彼の
上司・朽木は必死に隠蔽しようとしていることが分かる。
所轄の八重洲署、捜査一課、捜査二課、サイバー犯罪対策課、
組織犯罪対策五課も加わり、一連の事件の真相を暴こうとする
が・・・

現場の刑事とコンピュータを駆使する犯罪に対処する男性が
コンビを組む物語。

この映画、相棒としては本編というよりも、相棒シリーズ
鑑識・米沢守の事件簿
と同様に、スピンオフ的内容で、
本編とは基本的にスタンスは同じだけど、右京を排除して
構成された物語という点でとても興味深いものが有った。

伊丹刑事ファンにはたまらない物語で、この映画でまた
彼の男気を感じられるものだったし、刑事としての使命感に
燃える彼の姿に、これまで特命係に意地悪していた彼の人間性
に対して、また別の見方で彼を見守ってしまうところに繋がって
いくのかも。

ネタとしては近い将来起こりうるであろう、日本の財政破綻に
対する危機感の希薄さに警鐘を鳴らす物語だった。
そしてタイムリーなことに、現在日本政府が行っている「特定秘密
保護法」の流れと上手いことタイアップしており、よりいっそう
政府や関係各所のしている隠蔽工作に対する憤り感を感じさせる
流れになっていて、リアルな流れも存在している。
そういえば数年前に銀行のシステムが突然ダウンするという
ことが頻繁に起きていたよなと思い返すと、より一層リアルさ
を感じる。

ドラマ版の「相棒」というと、サイバー犯罪に関して無頓着
なまでに排除してきた流れが有るので、ようやくデジタル犯罪
というものの捜査が描かれて来たのかなという感じ。

今回のドラマで上手く出来ていたのは、関係各所を余すところなく
利用したという点で、最終的にはその流れが一つの意図する
陰謀へと繋がっていくところである。

そしてそれぞれにその犯罪に対する対応の違いが面白く描かれて
いるし、役割の違いというのもまた面白いリアクションとして
現れていた。

先週のクローザー」のシーズン6の#12「善意と強欲の中で
ロサンゼルス市警察内部でも似たようなことが描かれていた。
市警察内部でも、強盗犯や重大犯罪課という部署が分かれている
のだけど、自分たちとは関係のない事件にはまるで刑事たちが
対応しようとしないことで、新しく赴任した本部長は警察内部の
壁というものに憤りを感じているというものだった。

ただサイバー犯罪対策課のメンバーが現場捜査を行うというのは
確かに現実的ではないとは思う。そういう訓練を受けていない
訳だし、下手に加われば足手まといになるというものがあるの
だけど、上手いこと互いの主張をぶつけながらも、犯罪に対する
姿勢を正していく流れというのは上手いこと、同じ組織内で
働く別の部署の、まるで価値観の違うような仲間たちから学んで
いくというところに面白さが詰まっていた。

組織としての上下関係、そして関係部署との壁など、働く上で
色んな制約があるけど、その壁を乗り越えられるのがインターネット
という仮想空間なんだろうけどね。

また最近見ている海外ドラマ「アンダー・ザ・ドームという
ドラマの中では、街全体がドームによって覆われてしまい、
紙幣価値が無くなるというドラマが描かれた。人間の社会にとって
切っても切り離せないのが紙幣であり揺るぎないものとして存在
しているのが金であることの必要性が有るとは思うのだけど、
そんな価値観が一気に転換したとしたからば、人は対処・対応出来る
ものなのか。
伊丹と岩月はドラマの中で金の貸し借りのシーンが有り、
最後のオチとして「日本銀行券が使える内に・・・」と呟くシーン
で締めくくられた。花の里での月本と刑事の信頼関係が描かれる
とことや、金銭で返すのではなく、今度奢り返すという流れを
持って行う辺りは、人間の価値は金ではなく信頼関係であるという
ことを皮肉にも描いた流れで、面白く出来ていた。

岩月彬 …… 田中圭 (サイバー犯罪対策課)
伊丹憲一 …… 川原和久 (警視庁刑事部捜査第一課員)

杉下右京 …… 水谷豊 (警視庁・特命係)
三浦信輔 …… 大谷亮介 (警視庁刑事部捜査第一課員)
米沢守 …… 六角精児 (鑑識課)
角田六郎 …… 山西惇 (組織犯罪対策五課)
内村完爾 …… 片桐竜次 (警視長)
中園照生 …… 小野了 (警視正)
大河内春樹 …… 神保悟志 (警察庁長官官房室長)
芹沢慶二 …… 山中崇史 (捜査一課。伊丹の後輩)
大木長十郎 …… 志水正義 (組織犯罪対策部)
小松真琴 …… 久保田龍吉 (組織犯罪対策部)
月本幸子 …… 鈴木杏樹 (二代目"花の里"女将)
陣川公平 …… 原田龍二 (捜査一課経理)
金子文郎 …… 宇津井健 (警察庁長官)
片山雛子 …… 木村佳乃 (衆議院議員総理補佐官)
神戸尊 …… 及川光博 (警察庁長官官房付)


麻生美奈 …… 国仲涼子 (東京明和銀行・法人営業部)
戸張弘成 …… 別所哲也 (財務省族議員)
神林直樹 …… 深水元基 (元村岡証券・現桂木企画)
中山雄吾 …… 戸次重幸 (東京明和銀行勤務・本店システム部)
小田切亜紀 …… 関めぐみ (サイバー犯罪対策課)
九条弘毅 …… 矢島健一 (サイバー犯罪対策課課長)
朽木貞義 …… 田口トモロヲ (東京明和銀行・システム企画室長)

久松信義 …… (東京明和銀行・頭取)
廣田幸夫 …… (財務省)
飯村 …… (村岡証券・元神林の上司)
松岡哲也 …… (東京明和銀行・朽木の上司)
平利一 …… (金融庁)
篠山 …… (捜査二課)
堤 …… (捜査二課)

橋口 …… (捜査官)
毛利 …… (捜査官)
那須 …… (捜査官)
谷 …… (捜査官)
渡辺 …… (八重洲署)

評価:★★★★★★☆☆☆☆ (6.0)

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