映画 「フラガール」

監督/李相日
脚本/李相日、羽原大介


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昭和40年。福島県いわき市。
炭坑で栄えた町も石油などの輸入により需要が減って、
鉱山が次々と閉山させられていた。この炭坑も全体の4割の
2千人を人員削除の対象にすると発表がある。労働者たちは
説明に来た社員に詰め寄るが会社も危ない状況にあると
理解を求める。経営者はいつも口ばかりだとして不安を
募らせる中、今日は新しい雇用を目指して計画されている
常磐ハワイアンセンターの説明会も同時に開かれることに
なっていた。責任者の吉本部長は事情を説明する。労働者
たちは端的に雇用は何人産み出せるのか尋ねる。500人だと
いうと残った1500人はどうしたらいいのかと不満を口にする。
更に家族や山を救うためにセンター創設を行うことを説明
するが皆途中で解散してしまう。
女性たちもVTRでハワイアンセンターで踊るダンサーの募集
広告を見せられる。しかし女性の多くは裸は見せ物ではない
として端から説明を聞くのを拒否。退席してしまう中で、
残ったのは、谷川紀美子と木村早苗だけだった。

早苗はハワイアンダンサー募集の公告を目にし、紀美子を
誘い入れた。彼女はこのチャンスを掴まなければ一生この
生活からは抜け出せないと感じていたのである。幼い頃から
盆踊りで鍛えてきたから大丈夫だと自分に言い聞かせてきた。
更に父親からつれられて熊野小百合をダンサーとして使って
欲しいと頼みに来るのだった。
スタッフである佐々木初子を入れて4人のフラガールたちが
揃った。
そんな頃、東京からダンサーの指導者・平山まどかが来ると
いう事だが・・・
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昭和40年代。
炭坑からの脱却・町おこしのために組織されたハワイアンセンター
で踊る為のフラガールたちの紆余曲折を描いた話。

ユアン・マクレガーが出演したイギリス映画「ブラス!」と似た
ような感じの物語で、踊りに命運を賭けたドラマだ。

時代の変遷期。
山を守る人たちと新しい興行をおこそうとするものたちとの
対立が起こる中で、活躍する女性ダンサーの物語。
当然ながら時代背景を考えると、ハワイアンダンサーの過激
な衣装をなかなか正視出来るような時代では無いだろうし、
女性の社会進出に関して、まだまだ偏見が有るような時代の
中での物語と言うことで、ダンサーたちの存在はかなり奇異
に映ったであろうことが感じられる話だ。

それに加えて田舎の炭坑街という事もあり、偏見やら固執した
観念が町民たちを支配し、なかなか新しい事をするのが難しい
という背景が存在している。

何と言っても炭坑夫の汗くささとは対照的にあるフラガール
たちの存在感。未来を担うと言うには少し頼りない存在が
物語が進む毎に逞しくなっていく。

都会から迷い込むべくして迷い込んできた平山まどか先生。
ただのか弱い指導者ではなく、田舎の骨太の炭坑夫たちと
堂々と渡り合っていくのだから凄い。教え子が暴力を奮われた
事に対して仕返しに行くシーンだったり、街の人々の人生や
生活を脅かす炭坑という仕事とは敵対する側の人間として
一身に視線を浴びてしまう有る意味可愛そうな役であるが、
そんな視線も全て跳ね返すほどのバイタリティを持った女性
だった。

フラガールとして活躍する蒼井優演じる谷川紀美子。
元々は友人からの誘いでその世界に舞い込んだものだが、
いつの間にかその中心に添えられる存在になる。
唯一の友人が引っ越してしまう様は、炭坑街の現実を見せつ
けられる様な演出で少し可愛そうだったが、紀美子に対する
彼女の存在は大きいモノ。

ドラマとして面白く設定されているのは、彼女の母親が炭坑
を守ろうとしている側に備え付けて居るという事だろう。
この家庭、父親は炭坑で亡くしているにも関わらず炭坑に
拘ることこそ人生そのものだと思っている典型的な保守派。
一家の大黒柱としての母親像としては当然ながら、炭坑に
拘っていかねばならないところなのだが、娘の将来を案じる
母親としての一面も持ち合わせており、次第にそんな母性が
引き出されていく。

映画として感心させられるのは、退屈であろう場面で流れる
優雅な音楽だ。この炭坑町とは似つかない革新的な音楽にも
聞こえる曲の調子がなんとも心地良い。

アマチュア集団であったフラガールたち。
当初は先生の気苦労も耐えない訳だが、宣伝の為のキャラバン
に出掛けて踊りを続けていく内にプロ意識に芽生えていく。
熊野小百合の父親が落盤事故に遭い瀕死の重傷の知らせが届く
にも関わらず踊りを続けていくという過酷な状況。プロ意識
を叩き込んでいた先生でさえ引き返すことを薦めるが、彼女は
継続して踊りを続けていくという。

最後の踊りに入る前に先生・平山まどかとの別れのシーンが有る。
結論から言えば別れはなくなるわけだが、ホームの反対側から
フラと呼ばれる手話で静かに訴える様がとても感動的。
そして最後の踊りは、最近の日本映画に流行の手法だね。

松雪泰子 ……… 平山まどか (ダンスの先生)
豊川悦司 ……… 谷川洋二朗 (長男)
蒼井優 ……… 谷川紀美子 (長女・フラガール)
山崎静代 ……… 熊野小百合 (フラガール)
岸部一徳 ……… 吉本紀夫 (ハワイアンセンター)
富司純子 ……… 谷川千代 (紀美子の母)
徳永えり ……… 木村早苗 (フラガール・転居)
池津祥子 ……… 佐々木初子 (フラガール)
高橋克実 ……… 木村清二 (早苗の父。リストラ)
三宅弘城 ……… 猪狩光夫 (ヤシを守る)
志賀勝 ……… 熊野五郎
寺島進 ……… 石田 (借金取り)
菅原大吉 ……… 若松浩司(炭鉱の労務係長)
及川以造 ……… 組合幹部1
北島義明 ……… 組合幹部2
眞島秀和 ……… 徹(バンドメンバー・ウクレレ担当)
大河内浩 ……… 炭鉱の組合長
山田明郷 ……… 小百合の祖父

フラガール
浅川稚広、楓、安部魔凛碧、栗田裕里、池永亜美、田川可奈美
上野なつひ、千代谷美穂、内田晴子、豊川栄順、直林真里奈
中村雪乃、近江麻衣子、中浜奈美子

樋口浩二、並川倖大、氏家恵、真山衣、濱島直人、鈴木寛弥
小野愛莉、高橋朗、畠みゆう、椎名泰三、ふくまつみ、才勝
大久保圭介、杉本凌二、大道茂生、福沢博史、仲田育史
市原滋、小手山雅、大塩剛、上坂克洋、泉麻奈美、半澤佑子
斉藤和雄、高岡則夫、馬目健夫、相田一彦、小野俊昭

評価:★★★★★★★☆☆☆ (7.0)

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