アンナ・カレーニナ Leo Tolstoy's Anna Karenina
1997 England America 108mins
監督・製作
 バーナード・ローズ 原作 レオ・トルストイ 音楽 サー・ケオルグ・ショルティ
出演
 ソフィー・マルソー、ショーン・ビーン、アルフレッド・モリーナ、ミア・カーシュナー






 

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  人の居ない雪道をひたすら走る男・・コンスタンティン。後ろからは腹を空かせたコヨーテが、彼を見るや
  集団で追いかけてきたのである。危うく噛み付かれそうになるところを、深く掘り下げられた穴に落ち、底に
  たたきつけられる前に何とか脇に生えていた木の根っこに捕まった。助かった・・と思う間もなく、下には
  腹を空かせた熊が彷徨き、今手にしている木の根っこをネズミが囓っていた。絶体絶命・・真の愛を知る前
  に死ななければならない恐怖は何事にも耐えられなかった。しかし、これは私だけでなくアンナ・カレーニナ
  にも言えることであった。

  1880年のモスクワ。コンスタンティン(コスチャ)は、想いを寄せていたエカテリーナ・シチェルバツキー
  (キティ)とスケートリンクで会う。コスチャは都会を嫌って田舎町に住んでおり、少しの間モスクワに出てきた
  のであった。都会に住むキティは、そんな彼に向かって質問する。田舎町に住んでいて退屈ではないのか?
  特に冬の間は積雪により、仕事(農業)をする事も出来ず、また社交界とは無縁の田舎町故、人との面会も
  限られており、そんな彼に興味を示すのだった。しかし、生真面目な彼にとって日々学ぶことも多く、農業して
  いる時は特に至福の喜びであった。いつまで滞在するのかというキティの問いかけに、彼は意味ありげに
  ”あなた次第です”と答えた。しかし、その真意を知ってかキティは避けるように彼から離れてしまうのだった。
  コスチャは今回キティに求婚する為にモスクワにやってきたのだった。彼の友人であるスティーバの元を
  訪れると、その事を告げる。するとスティーバは、彼の不安を和らげるように、妻のドリーには予知能力が
  備わっており、その彼女がキティとコスチャは将来結婚すると言っていたと言うことを話すのだった。

  エカテリーナ邸を訪れるコスチャ。彼女の家が主催のダンスパーティがあり、そこに出席すると同時にその時
  キティにプロポーズする。しかし彼女は首を縦には振らなかったのだった。彼女はそこにやってきたヴロン
  スキー
伯爵を紹介すると、コスチャは察したように、彼女から身を引くためにその場を後にするのだった。

  電報を受けてヴロンスキーは、モスクワの駅に母親を迎えに行く。そこには同じく妹を迎えにくるスティーバの
  姿があった。駅に列車が到着すると、ヴロンスキーは出てきた女性に目が釘付けになる。彼女の名は
  アンナ。スティーバが迎えに来た妹であった。アンナはアレクセイと既に結婚しており彼との間に、8歳に
  なる子供セリョージャが居た。夫が多忙のため一人でペテルブルグからモスクワで出てきたのである。
  彼女が出てきたのには訳があった。兄のスティーバは、息子グリージャの家庭教師と浮気した為に、9年
  間の安定した結婚生活が不意になりそうな状況にあった。そこで妻のドリーとの間に立ち、調停役を
  買ってでてもらおうと呼び寄せたのである。早速ドリーの元へと送ると、アンナはドリーに面会し、兄が後悔
  している事を話した。

  一方、不仲という点ではコスチャも悩みを抱えていた。田舎を飛び出した兄ニコライとは疎遠な関係にあった
  のである。モスクワに出てきた目的の一つでもあるニコライとの関係修復の為、ニコライの住むアパートに
  立ち寄る。すると中から出てきたのはマリアと言う名の女性であった。ニコライとは結婚しており、一緒に
  住んでいたのである。ニコライは共産党員であり警察からも目を付けられていた。それだけでなく、最近は
  健康を害しておりコスチャは田舎に帰るよう説得する。しかし聞く耳を持つことはなかった。コスチャは、現在
  の兄の状況を察し現金を置いていく。すると二人は今までの不仲は嘘のように抱きしめ合うのだった。

  遅れてやってきたキティは舞踏会に出席する。そこにはアンナとコスチャの姿もあ
  った。キティは自分の相手のヴロンスキーを探すが、彼は別の方に意識を集中して
  いた。彼の視線の先にはアンナの姿があった。ダンスが始まると、じきに二人の間
  は近づいていく。そして二人が最接近したときには、会場中が注目するほど生き生
  きとした二人の世界・踊りが見られるのだった。それを見ると、キティは察したように
  涙する。アンナがハッと気が付き、急いでその場を後にするのだった。

  アンナは帰りの列車の中で、先程踊ったヴロンスキーの事を思い浮かべる。
  途中停車した駅では、気分が悪くなり、外の空気を吸いにホームに降りると、そこ
  にはヴロンスキーの姿があった。思わず自分の気持ちを抑えることが出来ずに追
  いかけてきたという彼。しかしアンナは、なんとか自分の気持ちを抑えようと、彼に
  引き取るよう話すのだった。
 

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     モスクワの駅に降り立ったアンナの姿に一目惚れする青年将校ヴロンスキー。アンナもまた、彼に
     恋をする。しかし彼女には夫と息子が居た。断りつつもやがて二人は結ばれることに・・
     果たして二人の恋の行く末は!?

     うーん・・・なんか泣けない映画でした。
     ソフィー・マルソーSophie Marceauのアンナ像はピッタリですし、ショーン・ビーン(Sean Bean)
     青年将校もなかなかでした。しかしそれでも映画はイマイチな感じを受けますね。

     社交界の厳しさ/人間関係の繊細さというのは、どの映画を見ても分かります。僕が感想を書いた
     『エイジ・オブ・イノセンス(’93原題The Age of Innocence)もそのことを前面に出した映画でしたが、
     本作ではどこか悲劇だけを前面に出しすぎてそれ以外の部分が疎かになったような印象を受けます。
     あらゆる角度からこの悲劇に関して演出し、最後は素直に泣きたかったです。これはやはりストーリー
     的にどこか共感出来ない部分が有るのかも知れません。

     映画の中では実質2人の主人公(コスチャとアンナ)をたてて、一方は次第に成就していく幸福ストー
     リー、もう一方は墜ちていく悲劇の物語として、面白く対比する形で、よりアンナの物語を引き立てよう
     としています。しかしこれが逆にうまく絡み合っておらず、アンナとコスチャの二つの物語の流れが平行
     線をたどっているような印象を受けます。これならば、アンナの事だけをクローズアップした方が、断然
     感情移入しやすいですよね。
     アンナやヴロンスキーを取り巻く環境というものがイマイチ説明不足。タイトルからしてアンナの方の
     ストーリーがメインだと思うのですが、むしろコスチャ側のほうにしっかりとしたものを感じるので、
     こちらに感情が流入していきます。都会で悠長に暮らす輩を嫌い、田舎暮らしを楽しむ一人の男が
     都会の女性に惚れ、そして振られて、また田舎に戻って汗水垂らして一心不乱にその事を忘れようと
     畑仕事をするシーンなんて、なんか泣けてきます。
     逆に一方の物語では、アンナが恋に落ちる時の状況、アンナが社交界から弾き出された際、世間から
     の厳しい圧力というものが全く絵として有りません。それ故に幾ら不幸だと言葉で言ってもイマイチ、
     その度合いを感じることが出来ませんでした。

     この時代、若者が女性と恋愛したり情事にふけることは逆に甲斐性とも勲章とも取られるのに対し、
     既婚者が浮気をすることは社交界では死にも等しいです。しかしカトリック教徒といえども
     『我が命つきるとも(’68原題A Man For All Seasons)のトーマスモアの頃とは違い、離婚というものが
     許されている時代の事です。そんな中、時代の風潮からくるもの、個人の持つ格とかプライドも含めて、
     全ては世間体からくる意地の張り合いにも似たものが、悲劇の発端になっています。
     アレクセイにしてみれば、アンナを若い男に寝取られた意地や離婚した事によって社交界での地位を
     揺るがしかねない事もあって、アンナとの関係は夫婦としての勤めは無いものの、形式上は籍を入れた
     ままの状態を貫いていきます。このキャラクターの心が広さというのもまた泣けない要因の一つかも
     知れません。彼は、徹底的にこの浮気に対して意地悪くしてくるのかと思いきや、アンナの浮気さえ
     受け入れていますよね。これだけ心が広く良い人っぽい役を演じていると、最後の彼女の悲劇を全く
     予想出来なかったのか・・という疑問が浮かび上がってきます。

     一方、当事者であるアンナとヴロンスキーの感覚の違いと世間の風当たりの違いの差が現れ始めます。
     上に書いたようにこの辺の描写が全くなかったのが残念です。ただ一文で済ませたシーンが多く、アン
     ナの内面だけが制圧されて、自分の中だけで苦しんでいる印象を受けました。
     互いに離婚を待つ身だという事は同じなのですが、結婚しているかしていないかの違いは、雲泥の
     差があります。ヴロンスキーが不倫している女性と関係することに対しては、世間ではそれほどの問題
     ではなく、不倫している女性側に全ての目は注がれているのです。
     彼は決して社交界などの外の世界/人々の繋がりのある場に、アンナを連れだそうとはしません。
     表面上アンナを気遣っての事も有りましょうが、ここではやはり彼の持つエゴにも似たものを感じ取れ
     ました。ヴロンスキーに取って、一度駆け落ちした時にイタリアへの道を選びました。しかし、実は都会
     の暮らし/派手な社交界に慣れた彼に取って、そんな田舎町での目的のない生活というものが耐えら
     れなかったのです。母親を盾にアンナとのイタリア行き/アンナの故郷行きの返答を渋りましたが、
     ここですんなり受け入れれば、ある程度時間が解決したようにも思います。しかし、逆にアンナ側にも
     落ち度が有ったと思います。一度は夫と子供を捨てて、ヴロンスキーとの恋を受け入れた形になりまし
     たが、駆け落ちした際、イタリアに居るときは子供の事で頭がいっぱいになった事だと思います。
     それを見るに見かねた結果、ヴロンスキーは彼女との田舎暮らしを拒んだのだと思います。

     ヴロンスキーがそんな彼女を差し置いて、社交界に再び出ていった理由は他にも有るように思います。
     映像的に見てアンナとヴロンスキーの関係を最後まで綺麗に描きすぎた感じを受けるのですが、
     アンナはかつて流産したときに一時的に使用していた麻薬のアヘンチンキを使用することにより現実
     から逃避していきましたが、実は常用しすぎで出会ったころの美しい・・・副作用による体の異変だとか
     態度にもっと現れているのだと思います。赤ちゃんの人形を子供に見立てて、話しかけるシーンなど
     はよく出来ていて良かったのですが、彼女の妄想による小言などもヴロンスキーには重くのし掛かって
     行ったのだと思います。

     愛を貫くというのは難しいですね!

     しかしショーン・ビーンとジェームズ・フォックス(James Fox)が顔を合わせたシーンなんて、ジャック・
     ライアンシリーズの『パトリオット・ゲーム(’92原題Patriot Game)を再来したようで良かったです(^^;
     ショーン・ビーンはあの時のテロリストのイメージがとても強いので、なんかアンナの後を追って行った
     ときには何かしでかすかと思ってヒヤヒヤでした(^^;


     ソフィー・マルソー     (アンナ・カレーニナ)         悲劇の主人公。かつて見た列車事故の影が彼女を襲う。
     アルフレッド・モリーナ   (コンスタンティン・レヴィン(コスチャ)一度キティに振られたモノの見事射止める。
     ショーン・ビーン      (ヴロンスキー伯爵)         アンナに一目惚れ。彼女が居れば他には何も要らない・・
     ジェームズ・フォックス   (アレクセイ/アンナの夫)     伯爵。しかしヴロンスキーにアンナを取られる。
     ミア・カーシュナー     (エカテリーナ・シチェルバツキー(キティ)) ヴロンスキーとつき合っていたハズなのだが・・
     ダニー・ヒューストン    (スティーバ/アンナの兄)     夫婦の仲を仲裁してもらうためにアンナを呼び寄せる。
     サスキア・ウィッカム    (ドリー/スティーバの妻)      アンナとは義姉。
     デヴィッド・スコフィールド (ニコライ・レヴィン/コスチャの兄) 最後は亡くなってしまう・・
     ジェニファー・ホール    (ベッツィー)
     フィオナ・ショウ       (リディア・イヴァーノヴァ/伯爵夫人)
     Anthony Calf      (セルプホヴスキー将軍)
                     (プリンセスバーバラ)
                     (プリンセスソロキナ)
                     (ツスケヴィッチ)
                     (セリョージャ/アンナの息子・8歳)
                     (グリーシャ/ドリーの息子)
                     (ターニャ/ドリーの娘)
                     (マリア/ニコライの妻)
                     (ヴラジェフ)
                     (トポフ/ヴラジェフと結婚)


評価:★★★★★★☆☆☆☆ (6.0)

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