スペシャルドラマ「月に行く舟」
2014-10-04

脚本・北川悦吏子
プロデューサー・堀場正仁、大谷佐代、櫻井美恵子
演出・堀場正仁
音楽・富貴晴美

http://hicbc.com/tv/tsukiniikufune/index.htm





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駅のホームで待つ女性・水沢理生。

この日雑誌の編集者の篠崎涼太は、作家の佐々波慶太郎の元に
原稿を取りに来ていた。しかし慶太郎は妻・千夏とケンカして
おり、慶太郎自身は何故妻が怒っているのか理解出来ていなか
った。涼太はそんな争いに巻き込まれるのはゴメンだとして
原稿を受け取ると早々に家をおいとましようとする。列車の時間
があるから・・と言い訳する中、慶太郎からはお土産のお菓子
をもらう。更に慶太郎は捜索活動のためにこの土地に移住して
きたばかりだが、何もない静かな場所に住んでいる為に、
次のエッセイのネタに困っていた。涼太に対して何かその辺の
ネタはないかと尋ねるが、自分も自宅と会社を往復している
だけで大したネタがないと語る。

理生は駅のベンチに座る中、小鳥のさえずりと風の心地良さを
感じる。理生は視覚障害者だったのである。理生はバッグから
手にしたコロンを手に振りかけるとその臭いを嗅ぐ。

涼太は東京行きの上り電車を待つ為にベンチに座っていた。
お腹の音が何度も鳴っていた。慶太郎の家で昼食を食べていけ
と言われたが断ったことが今になって後悔することになる。
近くに座っていた理生に対して、この辺で軽く食事が出来る
場所を知らないかと尋ねると、「茜」という喫茶店があり、
サンドイッチくらいならば食べられるという。いざその場所に
いくがその店は閉店している事が分かる。
駅に戻ると、彼女が自販機の前で飲み物を選んでいることを
目にする。目の見えないことを知っていた涼太は自分が目的
の飲み物のボタンを押しましょうかと声を掛けるが、彼女は
その言葉と同時にボタンを押してしまう。彼女によると、
暖かい飲み物が出るか、冷たい飲み物が出るか占いみたいなもの
だという。涼太は自分が取ってあげるとしてどちらが希望の
飲み物だったのかと尋ねると、冷たい方だという。涼太は自分
も自販機でコーヒーを買う中で、冷たい飲み物を買い、自分
は彼女が押してしまった暖かいコーヒーを手にする。

ベンチに座り再び会話する。
ここには作家の佐々波慶太郎の原稿を取りにやってきたのだと
語ると、彼女は点字で彼の小説を読んだことがあるという。
半年前に移住してきたことは噂で聞いた事を告げる中、現在の
彼はエッセイを書かれていて、新刊雑誌の創刊号に連載をお願い
したのでお礼を込めて、原稿を東京から取りに来たのだという。
大作家先生であり、玉稿である事を語る。
いよいよ涼太は上り電車が来る中、別れ際に彼女に先ほど
聞いていた音楽は何かを尋ねると、スピッツの曲だという。
自分も彼らの曲「魔法のコトバ」が好きだと語る。

上り線のプラットホームへと向かう涼太だが、彼女は彼が
ベンチに紙袋を忘れていったことに気が付く。大切な原稿が
入って居るのではないかと感じて、大声でそのことを告げ中、
目の見えない彼女は思わずつんのめって倒れてしまう。
涼太は列車に乗るのを諦めて、彼女の元に駆け寄る。
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作家の佐々波慶太郎の元に原稿を取りに行った編集長の涼太は
そこで視覚障害者の女性・水沢理生と出会う。列車を待つ
までの間、会話をしていく中で、少しずつ互いの身分を語って
いく。

私の中の栗原小巻さんというと、BSで見ていた「三人家族」
「二人の世界」の竹脇無我さんとの共演ものだったので、
一気にあれから40年以上経過したんだなという歳月を感じさせる。
笑顔の似合う女優さんだったけど、このドラマでは夫の行動
の"何か"によって笑顔を奪われた女性役を演じている。
その何かは一つのミステリードラマのようで上手くメインの流れ
を潰さず一つのアクセントとして存在している。

ドラマは、視覚を失った女性と出版社の編集長のちょっとした
出会いの物語だった。
互いにないものを上手く補い合って良い感じの関係を築いて
行く物語で、特には健常者側である篠崎涼太が視覚障害者の
理生から色々と気づかされることの多い内容である。

人は記憶を一生止めておくことは出来ないし、愛情もまたそんな
記憶と同時に愛した時の記憶というものを止めておくことは
不可能なのかとする疑問を投げかけるものが有ったけど、
作家夫婦の物語は夫婦共に記憶の曖昧さに対して罰の悪い思いを
する物語で楽しいものが有ったし、自分の中の記憶が視覚を
失うことでそれ以降進む事のない時間をさまよい歩いて迷走して
いる女性が、やりとりを通して相手のことをどれだけ情報を掴み
信頼にたる人物なのかを探る流れが有る。

刑事ドラマでは研ぎ澄まされた感覚を持つ刑事によって目に見える
ものだけが真実ではないとする主張があるけれど、まさにこの
ドラマでもそんな側面が有るのかも知れない。

目に見えないものの中から真実をつかみ取ろうとする女性が五感を
通して様々な情報をつかみ取っていくところなど、まさに視力だけ
が全てではないことが描かれている。

匂いや音など、普段と変わりないものが信頼出来るものとして
描かれていたり、男女関係・人間関係に於いては、優しいウソが
必ずしも相手の信頼を勝ち得るものではないということを端的に
示してくれて興味深い流れが有った。

涼太がついた「優しいウソ」と、二人が違いに掛け合った「さような
ら」の言葉。
一体どっちが多く交わされたものだったのだろうか。

最後はちょっぴり希望を持たせる為とはいえ非現実的なオチが
用意された気がする。「自殺未遂の流れ」「電車ではなく車で来た」
「昼間に届いていた手紙が夜になって手渡される」流れは違和感が
有ったし、最後に手紙を読む涼太のシチュエーションは、手紙には
絶望的なことが書かれていたり、実際にはない手紙が存在していて
涼太が優しいウソを付いていくところに繋がって居るのかなと
思えるような流れでは有った。
本当に相手の中に愛があれば点字でその愛を伝えるものが有った
のではないかという気もする。

純粋に相手を喜ばせたいと思う相手との出会い。
電車のドアが閉まる瞬間、実に切ない思いにさせられるものだった
けど、なんとか幸せを掴んで欲しいと願うばかりだね。


水沢理生 …… 和久井映見 (視覚障害者)
篠崎涼太 …… 谷原章介 (出版社・編集長・42歳)
佐々波慶太郎 …… 橋爪功 (作家)
佐々波千夏 …… 栗原小巻 (作家の妻)
水沢ユキ …… 村井美樹 (理生の妹)

高原靖典、田中靖浩、近藤未緒子、大島久枝、榎本和代
榎本さくら、中川ひろき、林克彦



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