クルーシブル The Crucible
1996 America 124mins 
監督 ニコラス・ハイトナー 製作 ロバート・A・ミラー、デビッド・V・ピッカー
原作・脚本 アーサー・ミラー
出演 ウィノナ・ライダー、ダニエル・デイ・ルイス、ポール・スコフィールド、ジョン・アレン
ジェフリー・ジョーンズ、ブルース・デイビソン






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  1692年のマサチューセッツ州・セイラムの田舎町。ここでは、悪魔を呼ぶという踊りや呪いが禁止され
  キリスト教の十戒を重んじている村であった。朝方、皆がまだ寝静まっている頃、村の若者(女)が森に
  集まり煮炊きる鍋を囲み、人の名を叫んで踊りを踊る。そう、意中の人と恋仲になるための呪いで
  ある。誰に教わったのか、鍋の中にはカエルや薬草などを入れ一人一人が手を合わせる中、アビゲイル
  だけは別の行動を起こした。家畜にかぶりつきその血を飲んで踊るという異常な行動・・

  ここに来る前アビゲイルには、好きな人が居た。その好きな人が住む家に奉公人として働きにでかけ、
  そこの主人と一回きりの情事にふけたのだった。その男の名は、ジョン・プロクター。彼には家庭が有り、
  妻のエリザベスをはじめ、2人の子供、300エーカーの土地を持った村の中では幸せな中流家庭である。
  エリザベスが病でベッドに横たわっている時、一瞬の気の迷いとアビゲイルの若さに惹かれ、彼は関係を
  持ってしまったのである。その現場を観た妻のエリザベスは、アビゲイルをクビにし、夫の過ちを許さなか
  った。それ以来、ジョンは償いのため妻と家庭の為に一生懸命働き、現在でもアビゲイルとは接触しない
  よう心がけていたのである。

  アビゲイルの呪いも途中に、森の中に一人の人影が見えた。牧師が踊り叫ぶ声を聞きつけ、見回りに
  きたのだった。皆が散り張る中、アビゲイルの妹・ベティは腰が抜け、動けなくなった。
  その日の朝、アビゲイルの元にトマスがやってくる。トマスは、アビゲイルの叔父であり、アビゲイル
  の両親は、彼女の目の前でインディアンに殺され、行く宛のない彼女らを引き取ったのである。
  トマスは教会で働いていた為、彼女にそのような行動は慎むよう忠告したのである。すると隣にいた
  ベティが目を開けたまま動かない事に気が付いた。アビゲイルは、急いで医者の元へと知らせに行くが、
  このような病状は全く観たことが無く、またこの時パトナムの子供ルースも同様の症状で居ることが分かった。
  この異常な事態にバリス牧師は村人を召集した。バリス牧師は、この事態は悪魔が村に入り込んだ
  として、悪魔研究の大家のヘイル牧師を村に招いて原因を追求して貰うことを提案し、そして村人皆で
  賛美歌を唄った。朝方呪いの為森に集まった若者達は、その中を抜け出し、皆でベティの元へと
  集まる。するとベティは、突然目を覚まし、窓から外に向かって大声で母親が居ないことを嘆き悲しんだ。
  アビゲイルは必死に彼女を宥めるが、ベティは興奮した面もちでアビゲイルを睨み、今朝行った行為
  (家畜の血を啜り飲み、ジョンの妻エリザベスを呪い殺そうとしていた事)を皆に告白した。ベティが喋る
  のを必死に止めるために彼女の頬を思いっきり叩くと、周りにいた者に今聞いたことを誰かに話したら、
  夜中に忍び込んで滅茶苦茶にすると脅迫した。
  果たして、この後村に起こった悲劇とは・・
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     一人の男を愛するアビゲイル。しかし、愛を勝ち取るために彼女はもの凄い行動を取ることに・・・
     若さ故、その後どのような事が起こるかを予期出来ない娘が、絶対的な影響力・力を持ち、正しい
     事に見境が無くなるとどういうことが起きるのか・・

     うーん、なんとも凄まじい話ですね・・
     アビゲイルの純愛から引き起こされた村全体を襲う悲劇、”魔女狩り”にまで発展していくという。
     科学や文明がまだ未熟である時代、心のより所を神とか宗教に委ねていた頃の話し。
     (魔女狩りっていうとヨーロッパだけでなく世界的にあった事象なのですね・・セイラムの魔女狩り
     っていうと結構有名みたいですが・・・そういえば、モンティ・パイソンの『ホーリーグレイル(’75原題
     Monty Python and the Holy Grail)の中の村でもそんな感じのパロディがあったなぁー)
     少女たちが怒られる事を恐れて足踏みを揃えた事から次第になにかが変わっていく。
     今現在でもそんな風潮があるのかも知れないけど(男の人よりも女の人の方が多そう)、
     仲間から外れるという事、たとえそれが間違っているとしても一人蚊帳の外へと足を向けることが
     生と死の境目だとした時、皆楽な方へと転がり落ちてしまう。一人で何かを行う事よりも皆で間違えた
     方向へ向かう方が遙かに楽な選択だというのは、メアリーが蔵返った事を観ても明らかなのだけど、
     どちらの言い分も正しい事として証明出来ないという煩わしさもどかしさ不透明さが、この村でここまで
     大きくなった原因でもあるのです。
     しかし、子供に善悪の判断を委ねると言うことの怖さをシナリオからヒシヒシと感じます。
     もっとも子供が間違えと気付いたときに、その悔いを改めさせるための仕方や、土俵際にまで追い込
     んでしまうような社会が悪いのであって、幾つかの場面でそんなチャンスがあったのですけど、やはり
     そんな感じで誰も名乗り出る人が居ないで、逆に反対していた娘までも寝返ってしまうという。
     逆にパリス判事も最後の善悪は付かなかったようですね。というより付けられなかったと言う方が正解
     かな。村人が望んだ事に反して、刑を形式的に行ったとはいえ、アピゲイルが逃げ出した時点で
     引くに引けない状況が生まれていて・・・残酷ではありますが、あの時生かしでもすればそれまでに
     刑を処した人たちの罪までも判事に非が回って来ることになりますから。
     何が一番人間に必要なのかを問うラストシーン。子供や妻のため自分を犠牲にして生きることを
     選ぶのか、自分の信念・プライドをかけて刑を受けるのか・・・生きていても負い目を感じるのが
     耐えられない生き様はジョンには耐えられず、結果寝返った感じのストーリーではありますが、
     実際ウソだと村人も感じていたハズなので沈黙を貫かず、村全体で彼をバックアップして欲しいところ
     でありました。しかし、そんな暗いストーリーでも今際の際になって本当の愛が見えたというのは
     唯一の救いかも知れません。
     (これで村人が立ち上がれば、『ブレイブハート(’95原題Brave Heart)のような感じになってしまいます
     が(^^;)
     しかし、ラストは不条理・・というか、当の本人はどこかに逃げてしまいましたね・・・『ロードス島
     戦記』のカーラに取り憑かれた盗賊のような感じの結果だ。
     うー、きっとアビゲイルが訪れた街は不幸のどん底になっていくという続きが有るに違いない・・
     悪魔の存在は無いとしても、何時の頃からかアビゲイルの心は悪魔に支配されていたのですね。
     (刑を観ているときのアビゲイルはゲラゲラと不気味に笑っていたのは結構怖かったです。)

     純粋に愛していたとはいえ、幼い頃両親が目の前で殺されたことによって、この愛も何処か歪んだ
     ところがあったのですかね・・確かに略奪的ではありますが・・しかもこの村の人は自己犠牲してまでも
     他人のために尽くすといった行動があまりにも無くてなんとなく寂しい気がしますね。アビゲイルは
     危険と見るや早々に村から逃げてしまったし(でもこの年代の愛の形の一つとして、成就しなかっ
     たら自ら命を絶つというような事が美徳のように描かれていたように思うのですが、この映画では
     全く逆の形になってしまいました(『アデルの恋の物語(’75原題L’Histoire D’adele H.)のアデルを見
     習えー(^^;))。せめて逃げる気のないジョンの手を無理にでも引いていこうとする何かが欲しい場面
     かなぁー。
     またジョンは・・といえば、やっぱり妻や子供のために生きることを選ばなかったし、牧師はジョンが
     嫌っていたけど村人の金を、特別必要の無い聖堂の装飾品に出費したりして・・どんな村なんだー。

     この手の歴史を感じさせる映画は衣装とか建物とか、生活様式などが凝っていてとても興味深い
     ものではありますが、ウィノナ・ライダー(Winona Ryder)のファッショナブルな衣装を色々と観られなく
     て残念です。
     メグライアン(Meg Ryan)やユマサーマン(Uma Thurman)的な役柄を演じてくれないかなー。なんか
     普通っぽい役が少ないぞー。(決して道は間違っていないと思うけど(^^;)
     ダニエル・デイ・ルイス(Daniel Day−Lewis)とは、2回目の共演ですね。1作目は『エイジ・オブ・イノセンス
     
(’93原題The Age of Innocence)
     劇作家アーサー・ミラーの戯曲「るつぼ」が原作。ミラー自ら脚本を担当。

     最後に、アビゲイルを演じたウィノナのヒロイン像について自身は、
     「最初はなんという憎たらしい、嫌な性根の娘と思ったけれど、役作りのため必死で彼女の立場に
      なって考えている内に、男の家から追い出され、お前らなど知らないと拒絶されたことで、熱に
      浮かされたようになって自分を聖人だと思うようになった無知な犠牲者に過ぎないと思うように
      なった」
と分析している。(スターチャンネル・プログラムガイドより抜粋)


     ウィノナ・ライダー    (アビゲイル)
     ダニエル・デイ・ルイス (ジョンプロクター/エリザベスの夫)
     ジョン・アレン       (エリザベスプロクター)
     ポール・スコフィールド  (ダンフォース/ボストン副知事)
     ジェフリー・ジョーンズ  (トーマスパトナム/ルースの父)
     フランシス・コンロイ    (アンパトナム/パトナムの妻)
     アシュレイ・ペルド     (ルース/パトナムの子供)
     ピーター・ヴォーガン   (ジャイルズコーリー)
     ブルース・デビソン    (パリス裁判長)
     エリザベス・ローレンス  (レベッカナース/被害者1)
     ウィリアム・プレストン   (メアリーウォーレン/寝返った少女)
     ロブ・キャンベル      (ヘイリー牧師/悪魔払いの長)
     Mary Pat Gleason  (マーシャコーリー/被害者2)
     Charlayne Woodard 
(ティチュバ)
     John Griesemer   
(チーヴァー/法廷書記)
     George Gaynes    
(シーウォル判事/ダンフォースと共にやってくる)




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