氷の微笑 Basic Instinct
1992年 アメリカ 128分 
監督 ポール・バーホーベン 製作総指揮 マリオ・カサール 製作 アラン・マーシャル
脚本 ジョー・エスターハス 撮影 ヤン・デ・ボン 音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 マイケル・ダグラス、シャロン・ストーン、ジョージ・ズンザ、ジーン・トリプルボーン






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  元ロック・スターのジョニー・ボズは、金髪の女性とベッドで結ばれる。女は徐に何処からともなく取り出した
  白いスカーフをボズの両腕に巻きベッドにくくりつける。そして互いに最高潮へと達した瞬間、女は隠し持って
  いたアイスピックで男の胸を何度も何度も突き刺すのだった。

  サンフランシスコ市警の殺人課のニック・カランと相棒のガスは殺人の知らせを受けて現場へと向かう。
  被害者のボズは現在流行の店を経営している事もあって、豪勢な生活・・豪邸に住んでいた。サンフラン
  シスコの選挙運動の時に多額の献金をしており、現市長とも密接な関係にあった。そのために、普段は現場
  には顔を見せたこともないタルコット本部長らも上層部に気を使う事件だとして姿を見せているのだった。
  犯行時刻は今から6時間前の夜中の2時前後。第一発見者の100Kg以上ありそうな巨漢の女性は、通い
  の家政婦だった。現場には、凶器と思われるアイスピックと、被害者らが常用していたと思われるコーク(
  コカイン)が落ちていた。そして捜査官の調べでは、昨晩ボズは、恋人と自分の経営する店から一緒に出る
  所を目撃したという証言を得ていた。恋人の名は、キャサリン・トラメル。そこでニックとガスは、事情を聞き
  にキャサリンの家へと車を走らせるのだった。
  キャサリンは現在ベストセラー作家で、豪邸に住んでいた。門から、中の使用人に事情を説明し中に入れて
  もらうと、二階から一人の女性が降りてきた。ニックは、その女性をキャサリンだと思いこみ、いろいろと質問
  しようとするが、女は彼女の友達のロキシーだと分かる。キャサリンは海岸にある別荘に居ると聞かされる
  と、急いで現場に急行した。
  別荘地では白いイスに座って海を眺めている金髪の女性が居た。彼女が目的の人キャサリンであると分か
  ると、ニックは事情を説明する。しかし、彼女は全てを知っているかのように別段驚きもせず、寧ろ淡々とした
  態度を取るのだった。横にいたガスは、キャサリンの表情から真相を読みとろうと凄みを利かせた声で、脅か
  そうとするが、ここでも全く動じる様子を見せなかった。仕方なく一旦署に引き返す二人。

  被害者の事や現場検証から幾つかの事が分かっていた。被害者には31カ所の刺しキズ、物盗りの形跡は
  全く無し、白いスカーフはエルメスの限定モノ、コカインは混ざりの無い上物・・・etc。恋人のキャサリンに関し
  ては、83年にバークレー大学で文学と心理学を専攻しており、両親が幼い頃ボートの事故で死亡し、1億ドル
  もの遺産を手にしたこと、去年ペンネームで小説を出版。その時に書かれたものは、引退して恋人に殺され
  るロックスターの話であるという。小説の67ページ目には、白いスカーフを手に巻き、アイスピックで刺し
  殺す事まで書かれており、今回の事件は、それを再現する形となったのだった。

  事件を犯罪心理の面から捉えようとガーナー医師とラモット博士を呼び出し、会議室には、タルコット
  本部長、地方検事補のジョン・コレッリ、殺人課のニックの上司ウォーカー警部、内部調査員のニールセン
  まで集まってきた。ラモット博士はその場で発言する。考えられる可能性は2つ、この本の著者が小説通りの
  方法で犯行を再現したのか、著者に恨みを持つ者が、本を読んで著者に罪を擦り付けるための犯行だという
  のであった。しかし前者の場合、著書した本人がそれを実行する事など考えられない事である。アリバイが
  無くとも著書した本が事実上アリバイと同じであるというのであった。

  ニックらはキャサリンを事情徴収の為に署まで連れてくることに・・・しかし彼女を連行してくるには全くの
  証拠が無かったのだった。
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     小説通り行われた一つの殺人事件。しかし被害者は、その著者の恋人だというのである。果たして
     被害者を殺したのは、著者なのか!? 次々と分かる新事実に引き込まれること間違いなし。

     この映画は結構僕の中ではツボに入ったものの一つです。
     シナリオの展開の仕方や演出、カメラワークに至るまで、素晴らしいものを感じました。
     しかし映画では残念な事に、過激なベッドシーンや事情徴収の場面でのシャロン・ストーン
     (Sharon Stone)に話題が集中しすぎたのと、エンディングでの意外(曖昧)な結末で、票を落とした感
     が強いような気がします。

     映画では、この殺人事件が行われた事により次々と関連する不可解な事件の存在が浮かび上がって
     来ます。それはキャサリンの周りを取り巻くモノ。キャサリンが愛した人は必ず過去に不可思議な死が
     起こっているのにも関わらず、彼女自身は全くの潔白で、捜査の手が回らない・・・小説で克明にその
     事件を表現し占っているにも関わらず・・である。
     そんなキャサリンには、調べれば調べるほどに新事実が浮かび上がってくる・・いわば噛めば噛むほど
     に味が出てくるスルメイカのような謎めいた存在なのですが、それは彼女だけでなく、主人公のマイケル
     ダグラス扮するニックもそうだし、後々分かる元妻?のベス・ガーナーもそう。視聴者の視点は、常に
     この主人公のニックにあるので、普通は彼がやること成すことは全て正しいのが通常の映画の世界
     なのですが、そのように見えて、実はそれすらも分からないというのがこの映画の特徴なのです。
     誰が黒幕なのか・・というよりも、この一連の事件/ゲームで、場面毎に誰が主導権を握っているのか
     という事がなんといっても楽しいです。

     では誰が犯人か・・
     一応、最後の15分くらいで突然ベスがニックによって撃ち殺された事によって、無理矢理事件を解決
     させてしまいしたが、実は殺した時点では、確実な確証が有ったというものではないのです。後々に
     ベスの家を家宅捜索した際に、いろいろと事件に関する物証(犯行に使ったと思われる38口径のリボ
     ルバーとか、キャサリンの載った新聞記事が多数)が見つかったりしましたが、こんなものは予めベスに
     全ての罪を擦り付けようとすれば、幾らでも出来てしまいます。周りの雰囲気とは余所に、最後ニックが
     浮かない顔をしていたのは、まさにそれを裏付けるかのよう。ベスが誰かに呼び出されて、あの現場に
     やってきたというのが、本当の事なのか・・又はウソの証言なのか・・この辺を上手く曇らせた為に、
     最後のエンディングが活かされた形になっているのです。この時点で生きているのは、ベス以外に
     キャサリンや謎の殺人鬼ヘイゼル・ドブキンス。この二人が共謀し、ベスに電話をかけた後、彼女が
     殺されるまでの間、証拠となる銃や新聞を置きに行く時間というのは、限りなくあるのです。

     やっぱり犯行は、複数人と考えるのが一番真実っぽく見えるのですよね。そして、誰が誰を殺したのか
     というのは、やはり銃を使って殺した事件と、アイスピックを使って殺した事件で線を引くと、上手く片づ
     けられるような気がします。そう考えると、最後のアイスピックは別に不思議では無いような感じですよ
     ね。もちろん動機は偏執的と言わざるを得ないのですが・・

     映画の見所の一つ。
     キャサリンがつき合っている人は全ては不可解な殺人を犯している人物です。もちろんそれは、主人公
     のニックも例外ではありません。彼は過去5年だか6年の間に、いくら危険な麻薬の捜査官をしていた
     からと言っても5人の観光客を殺しています。そして、それを上手く演出する意味でも、署内では、ニック
     の顔を見る度に、口々に”異常性”を訴えています。映画の中では、初めはキャサリンが容疑者として
     次々と尋問を受ける形になりましたが、ちょっとした事件で、今度は主人公が尋問を受ける事に
     なります。精神鑑定や嘘発見器・・次第に、互いに同じ様な立場になり、不思議な事に態度までもが
     同じようになっていきます。そんな主人公がどんな反応を見せ、どんな行動を起こしていくのか・・やっぱり
     同じ境遇に立ったからこそ閃く事件の真相などがあると思うのですよね。このオーバーラップは脚本の
     妙というか、上手く仕上げた感じがしました。
     更にもう一つ、リサ・オーバマンの存在。
     次第に捜査が進むに連れて、この人物がベスと同一人物だと分かっていく展開は卒倒するほど恐ろし
     かったです。過去に同じ大学に通い、一度だけキャサリンと寝たことがあるという共通部があるのだけど
     キャサリンとベスでは証言が全くの正反対。キャサリンがベスのマネをしたのか・・ベスがキャサリンの
     マネをしたのか・・謎は深まるばかりです。なんとなく、『ルームメイト』(’92原題Single White Female)で、
     ブリジッド・フォンダ(Bridget Fonda)がジェニファー・ジェイソン・リー(Jennifer Jason Leigh)にスナッ
     チされるか如く、狂気的な不気味さを感じました。

     僕の中ではサイコサスペンスものでトップ10に入る作品だと思います。


     マイケル・ダグラス      (カラン・ニック/刑事)       殺人課の刑事。少々分裂気味?最後のの犠牲者?
     シャロン・ストーン       (キャサリン・トラメル/小説家)  妖しげな小説家。しかしなかなか雰囲気が出ていた。
     ジョージ・ズンザ        (ガス/ニックの相棒刑事)     数少ないニック派。エレベーターで殺される。
     ジーン・トリプルボーン    (ベス・ガーナー医師)        ニックと寄りを戻したいと思っている。
     ウェイン・ナイト        (ジョン・コレッリ/地方検事局補) ちょっと太り気味。事情徴収での鋭い視線は名演技。
     デニス・アーンド        (ウォーカー警部/ニック上司)  ニックを目の敵にしている。
     ビル・ケーブル         (ジョニー・ボズ/元ロックスター)映画の中では第1の被害者。
     チェルシー・ロス        (タルコット本部長)         
     Leilani Sarelle       (ロキシー/キャサリンの女友達)この人は男役なの? 第3の犠牲者。
     Stephen Tobolowsky  (ラセット博士)            犯罪病理学者。法務省犯罪心理学分析チームの一人。
     ダニエル・ヴァン・ヴォーゲン (ニールセン内務調査員)     第2の犠牲者。ベスから情報を買いキャサリンに売っていた
     ドロシー・マローン       (ヘイゼル・ドブキンス)       謎の元犯罪者。キャサリンと仲が良い。
     William Duff−Griffin   (マイロン博士)           精神科医
     ジェームズ・レブホーン    (マクルウェイン博士)        精神科医


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